第50話 マーガレット視点

~マーガレット視点~


「自己紹介がまだだったね」


今まで黙って会話を聞いていた素敵なおじ様が優しく微笑んで声をかけてくれたの。


この方なら助けてくれるかもしれないわ!


「私はディハルト公爵、ヴィクトリアの父親だよ。随分とうちの娘が世話になったね」


!!!

嘘でしょう?父親ですって?


「私はディハルト公爵家嫡男のルイスです」


あの子の兄ですって?


「僕はディハルト公爵家の次男リアムだよ」


この人もなの!


彼らがあの子の兄だと知っていたら、アレクシスなんかに執着せずにヴィクトリアと仲良くしていたわ。

そうしたら今ごろ2人のどちらかを手に入れられたのに・・・





・・・無理だわ。

この人達はわたくしを助けてはくれない。



やめて、震えないで、わたくしは王女よ!

みっともない姿を見せる訳にはいかないわ!


「さて、君はどうするんだい?」


「ど、どうとは・・・」


「王女ではない君をここには置いておけないと殿下も仰っていただろう?この部屋から出たら君は着の身着のままこの王宮から追い出される。行き先はあるのかい?」


あるわけないじゃない!

だから助けを求めたのよ!


でも、2人のどちらでもいいから欲しいわ。


この部屋から出される前に何とか気を引かないと・・・

狙うならルイス様一択ね。

彼は時期公爵様だもの。

今と生活はさほど変わらない筈だわ。

それにあの子だって何れはお嫁に行くもの、少しの間だけ媚びればいいだけよ。


考えるのよ。

チャンスは限られているわ。


国にはもう戻れない・・・

頼れる人もいない・・・


それにこの国でも恨まれているなら、見つかれば殺されてしまうかもしれない。


王女として何不自由なく育ったわたくしは外の世界では生きていけない。

そんな事は分かっているわ。

誰かに頼るしかないの。




「ご迷惑はお掛けしません。だから、お願い致します。ディハルト公爵家に置いていただけませんか?」


ルイス様を見つめながら目を潤ませて見上げるわ。

ほら、庇護欲がそそられるでしょう?


「うちには君が陥れようとした可愛い妹がいる。君の嘘のせいで妹がアレクシスに何をされたかその場に居た君は知っているだろ?」


・・・忘れていたわ。


「あれは、アレクシスがやったことですわ」


ルイス様が無理なら優しそうなリアム様ならどう?


「そうだね。でもその前にも僕たちの可愛い妹は君の取り巻き達に怪我を負わされたんだよ?彼らも君の嘘が原因で廃嫡されたよ?」


どう言えばいいの?

何をすれば・・・


「お願いします。何でも致しますわ」


"何でもする"この言葉は魔法の言葉よ。

きっとルイス様とリアム様の頭の中は、わたくしを自由に出来ると色々なことを想像しているはずたわ。


「それに私は昨日婚約したばかりだ。彼女と君を会わせたくない。可愛くて優しい彼女を私は蕩けるほど甘やかすつもりだ」


まだこれでもダメなの?

そんなのまた奪ってしまえばいいの。


「まあ、君をうちに連れて行くことはないから他を当たりなさい」


父親の方は頭が固いわね。


「僕たちは可愛いヴィーを傷つけた君を受け入れない。そんな君でも受け入れてくれるとしたら・・・」


誰?誰なら面倒を見てくれるの?


「アレクシスだけだね」


アレクシス?

もう彼のことは飽きてるのに・・・。

でもアレクシスは侯爵家の嫡男だったわ。

彼のところに行くのもいいかもしれない。


「彼にはもう君しかいないから大切にしてくれるさ」


そんなことは当たり前でしょう?

だってアレクシスはわたくしに夢中だもの。


ほとぼりが冷めるまではアレクシスを利用させてもらうわ。

彼も顔だけはいいもの。


頑なに口付けだけしかしなかったアレクシスも、一緒に住めば間違いなくわたくしを求めてくるわ。

経験のない彼があの快感を知れば、さらにわたくしに夢中になるでしょうね。

それに今はアレクシスに頼るしかないわ。


「分かりました。彼にわたくしの身をお任せしたいと思います」


「アレクシスならどんな君でも受け止めてくれるよ」


キリリとしたルイス様も良いけれど、優しく微笑むリアム様も捨て難いわね。

何れにしろ、どんな手を使っても2人を手に入れるわ。




「それでいいんだな?」


まだいましたの?アンドリュー殿下・・・

わたくしを追い出す貴方に用はないのよ!


「はい、わたくしはアレクシス様をお慕いしていますもの」


嫌になったらアレクシスを捨てて逃げ出せばいいのよ。


「そうか・・・リアム頼んだ」


「はい」


リアム様がわたくしに手を差し出して立たせてくれた。

アレクシスのところまで連れて行ってくれるのね。




え?


一瞬何が起こったのか分からなかった。

リアム様の手元が動いたと思ったら・・・


ニヤリと笑ったアンドリュー殿下と、高い位置から冷たく見下ろすリアム様と目が合ったことまでは覚えている・・・


「罪深いお前を自由にするわけがないだろう?残りの人生後悔しながら生きていきな」


遠くなる意識の片隅でアンドリュー様の言葉だけは聞き取れた・・・









経験したことの無いような痛みで目が覚めた。


あの時わたくしに何があったの?

下半身のこの痛みは何なの?

それにここは何処なの?


痛みと恐怖に自然と涙が浮かんでくる。


誰か、誰かいないの?


真っ暗な部屋に月明かりがカーテンの隙間から少しだけ入っている。


あれから何時間、何日経ったのかも分からない。


分からない、分からない、何も分からない・・・






「薬が切れたか・・・」


暗闇から聞こえたのはアレクシスの低い声だった・・・


「完全に傷が塞がるまでは寝ていろ」


傷?

どういう事?


腕にチクッとした痛みがと思ったら・・・意識・・・が遠のいてい・・・く・・・

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