第49話 マーガレット王女視点

~マーガレット王女視点~


客室に閉じ込められて6日目。


客室の扉を軽く叩くノックの音がした。

ようやく解放される・・・部屋に付いていた侍女が開けて入ってきたのは・・・よく似た美形の男性が2人。

兄弟かしら?


欲しい・・・


この方たちは、わたくしの知っている美形とは比べ物にならないほどレベルが高い。


一人はキリリとした顔立ちに、服の上からも分かる鍛えられた身体。

もう一人は穏やかで優しそうな顔立ちに、細身だけど引き締まった身体。


それに2人とも長身で、佇まいだけで高位の貴族令息と分かる。


ただ・・・どちらも銀髪にサファイアブルーの瞳。

(あの子と同じ色・・・)


まさかね?

あの子の関係者だとしたら・・・わたくしの印象は既に悪いかもしれない。


でも大丈夫。

アレクシスだって最初は冷たい目でわたくしを見ていわ。

それが熱の篭った目に変わるのはすぐだったもの。


この2人・・・どちらも捨て難いわ。

先に狙うのなら・・・



「アンドリュー王太子殿下がお待ちです。マーガレット王女をご案内させていただきます」


わたくしったら、挨拶もせずに2人に見惚れていたみたい。


「はい、よろしくお願い致します」


怯えたように小さな声で返事をするわ。


それだけで、大抵の男はこの見た目のわたくしに騙される。

か弱そうに見えて庇護欲をそそるでしょう?


「・・・どうぞこちらへ」


え?

期待していた反応ではないわ。

いつもなら蕩けるような顔になったり、赤面したりするものなのに・・・。


これぐらいで落ちるような簡単な男たちではないのね。


面白いわ。

でも、エスコートをしないところは減点よ。


しずしずと素直について行くことにすれば、会議室のような部屋に案内されたの。


部屋には王太子殿下のアンドリュー様と、凄く素敵なおじ様がいたわ。


アンドリュー様の後ろにはキリリとした顔の男性が、素敵なおじ様の後ろには優しい顔立ちの男性が付いたわ。

そこなら、わたくしの可憐な顔がよく見えるでしょう?


「呼び出してすまないな。マーガレット王女」


「いえ、王太子殿下のお呼びですもの構いませんわ」


ここではにかむ様に微笑むのがポイントよ。


「まあ、座ってくれ」


促されるままソファに座ったけれどお茶も出てこないわ。


「すぐに本題に入るが構わないか?」


「ええ構いません」


「・・・まず、トライガス王国のバレリオ王太子殿下、つまり君の兄上が国王に即位することが決まった。そして現国王は退位し、離宮に生涯幽閉されることが議会で満場一致で決定された」


・・・今、アンドリュー様は何を言ったの?


「え?」


「もう、トライガス王国に君を庇う人はいない」


「・・・そ、そんなことはありませんわ!そ、それにお父様が退位ですって?何かの間違いではありませんの?」


お父様はまだ若いのよ。

退位するには早すぎるわ。


それに、わたくしは皆んなに愛されているもの。

お願いすれば誰だって庇ってくれるわ。


「君は自分の欲望のために人を傷つけ過ぎたんだよ。

婚約者を奪い令嬢たちを傷つけた。

そうまでして手に入れた男もすぐに捨てた。その男達にも恨まれている。

貴族の結婚は家同士の契約だ。それを反故にした彼らは貴族社会の中で信用を無くし、居場所が無くなった。君は彼らの人生まで奪ったんだ。恨まれて当然だろ?」


なぜアンドリュー様がその事を知っているの?


「・・・」


「君が繰り返す行いを咎めもせず、野放しにした現国王はその責任を取らされて退位するんだ」


わたくしはただ楽しく遊んでいただけよ?

そんな些細なことでお父様は国王の座をお兄様に奪われたと言うの?


「そして・・・今の君は王族籍を剥奪された平民だ」


「う、嘘よ!わ、わたくしが平民だなんて嘘ですわ!」


こんなの嘘よ!

アンドリュー様はわたくしを揶揄っているのよ。


「平民の君がトライガスに帰ったらどうなるんだろうね?令嬢たちの家族も、子息達も恨んでいるようだからね~命があればいいな」


そんな事を笑って言うアンドリュー様は残酷な方なんだわ。


「もう王女では無い君を、この王宮に滞在させる訳にはいかない。うちの国民の税を君に使うワケにはいかないからな。今日中に出て行ってもらう」


無理よ!どこに行けばいいのよ!


「ああ、君の取り巻きたちはヴィクトリア嬢に危害を加えて全員廃嫡になったぞ。その家族にも君は恨まれている」


待って、あの子達が登校しなくなったのは廃嫡になったからだったの?


じゃあアンドリュー様が言っていることは本当なの?


「お、お兄様ならわたくしを助けてくれますわ!」


「ははは、バレリオ殿下は君に何度も忠告していたそうだな?トライガス王国にとっても、ここカサンドリア王国にとっても君の存在は害悪でしかない・・・必要のない人間だ」


わたくしは皆んなから大切にされてきたわ。

必要のない人間ではないわ!


「だから、今度は君が捨てられたんだ」


嘘よ!


「それとバレリオ殿下は君が帰ってきたら、君を恨んでいる者たちに引き渡すそうだ。さて、どんな惨い目に遭うかな?」


そ、そんな・・・そんな場所には帰れない。


もう、遊びはやめるから・・・

もう、男を奪ったりしないから・・・


だから、だからお願い誰か・・・誰か助けて!






待って・・・この人達なら助けてくれるかもしれない。


だって今のわたくしは可哀想でしょう?

守ってあげたくなるでしょう?


「・・・お、お願いします。わたくしを助けて下さい」


目を潤ませ上目遣いでお願いするの。

これが通用しなかった人は今までいなかったわ。




ほら、早く助けると言って。





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