第47話 後半マーガレット王女視点

「・・・疲れました。私はもう帰ってもよろしいですか?」


もう、彼が分からない。

彼は自分の事ばかりで、人の気持ちが理解出来ない人なのかもしれない。


「ああ、アレクシスの処罰は宰相の公爵も交えて話し合うから、帰ってゆっくり休めばいい」


お父様は陛下と一緒に貴族会議に出席していて、まだ今日の事は知らせていないってルイス兄様が教えてくれた。

その警備にリアム兄様が付いているから、リアム兄様も知らされていないらしい。


ルイス兄様は私と一緒に帰ろうとしたんだけど、マーガレット王女のことで話があるとかで、王太子殿下に引き止められてしまった。


そっちの方が大変そう・・・。


まだ何かをブツブツ言っている彼のことは無視して、王太子殿下とドルチアーノ殿下、ハイアー侯爵様に挨拶をして部屋から出ようとしたんだけどね、頭からルイス兄様の上着を掛けられ、またお姫様抱っこされた。


「こんな顔のヴィーを見られたら憶測で変な噂が流れるかもしれませんので馬車まで送ってきます」


「そうだな。なるべく早く帰ってこいよ。ヴィクトリア嬢も暫く痛むだろうから無理はするなよ」


上着のせいで顔は見えなかったけれど王太子殿下にお礼を言ってから退室した。







「1人で帰らせることになってごめんなヴィー」


私を馬車に乗せると、ルイス兄様が謝ってきた。


「いいのルイス兄様はお仕事だもの」


「会議が終わったら父上とリアムにも伝えとくから後は任せろ」


「・・・はい。お願いします」


どんな罰が与えられたとしても、もう彼と会うことはない・・・と思う。

てか、会わなくていいし、会いたくない。






大変だったのはここからだった・・・


邸に到着し、執事と使用人たちにエントランスで迎えられて、ルイス兄様の上着を取った途端に数人の使用人から「「「キャーお嬢様!」」」と邸に響き渡るほどの悲鳴があがった。


そして、騒ぎを聞きつけたお母様が私の顔を見て倒れそうになるし、落ち着いてからは説明を求められるし、説明している間に王宮で話しを聞いたお父様とリアム兄様が急いで帰ってきて、お父様は怒りで震えるし、リアム兄様は「ヴィー待っていてね。アイツを殺してくるからね」と笑顔で物騒なことを私に告げてから2人が王宮に引き返して行くまで騒ぎは続いた。


今日一日で私の疲労はMAXだったようだ。

侍女にお風呂に入れてもらって、ベットに入るとすぐに眠気が襲ってきた。


だから私の寝顔を見てお父様や兄様たちが、悔しさに震えていたことは知らなかった・・・。





~マーガレット王女視点~


冬季休暇に入る前日・・・何時ものように朝からアレクシスがクラスまでわたくしに会いに来たの。


来るのが分かっていたから、顔にガーゼを貼って俯いて怯えているように演技すれば、あとは心配するアレクシスに『アレクシスに近づくなとディハルト様に脅されて叩かれた』と言うだけ。

それだけでアレクシスは確認する事もなく、わたくしを信じたの。


単純過ぎてつまらない男。



わたくしの計画通りアレクシスの口から彼女に婚約破棄を言い渡したところまではよかったのよ。


たくさんの生徒たちの前で恥をかかせ、悔しがる顔が拝めると思っていたのに・・・


なのにアレクシスと彼女が婚約していなかっただなんて!

アレクシスだけが婚約を結んでいたと思い込んでいただけだなんて!


こんな退屈でつまらない男に、わたくしの貴重な時間を無駄に使わされたと思うと、腹立たしさと屈辱でこの場を一刻も早く去りたくなった。



しかも彼女にわたくしとアレクシスの関係をここで暴露されるだなんて・・・


周りからはわたくし達を批判する声しか聞こえない。


アレクシスとは顔見知り程度の関係だと彼女は言った・・・。

その瞬間、何の為にわたくしがアレクシスを落としたのかすべてが無駄になってしまったの。



彼女の挑発的な態度ともの言いに、まさかアレクシスが彼女を叩くなんて思わなかったわ。

彼女は頬を真っ赤に腫らして、口の端には血が出ていた・・・。


いくら何でも女性に手をあげる?


これだけ目撃した生徒がいたら、もう言い訳も通用しない。


アレクシスが婚約破棄したら、とっとと彼を捨てて自国に帰る予定だったのに・・・


呆然とするアレクシスと同じ馬車に押し込められて王宮に連れてこられてから、彼と別れてわたくしだけが客室に閉じ込められている。


その時に医師に頬に貼っていたガーゼを外されて、診察されてわたくしの嘘がバレてしまったの。



この王宮に、わたくしの為に用意された離れに戻りたいと言っても、この部屋についている侍女も、騎士も『もう暫くお待ちください』としか言わないの。


きっとアレクシスに事情を聞いているのだと思うけれど、トライガス王国の王女である、このわたくしを何時間も待たせるなんて失礼だわ!


元々予定よりも早く帰国するつもりだったけれど、アレクシスが手をあげたのは公爵令嬢だもの、わたくしの嘘がバレた以上強制的に帰国させられることになると思うわ。




結局この日、この客室に訪ねてくる者はいなかったの。

それどころか、この日から6日間訪ねて来る者もおらず、客室から出ることも許されなかった・・・


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