第46話

会話ばかりになります。




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最初に言葉を発したのは王太子殿下だった。


「どういうことか説明してもらえるか?」


「はい」


ハイアー侯爵様の隣では俯いて『嘘だ、嘘だ、嘘だ』と同じことを呟く彼が・・・


・・・ハイアー侯爵様はそんな彼を視界に入れず、覚悟を決めた顔で大きく深呼吸をしてから話し始めた。





「私には1つ上のボルドーという名の兄がいました。もう本当にどうしようもない兄で、賭博も女遊びも酒も成人する前には覚えていましたよ」


「最初は女遊びも娼館通いだけだったんですよ。まあ、それも問題なのですが・・・」


「両親は幼い頃から嫡男の兄には甘かったですからね。それも若いから仕方ないと許していたのです」


「それが段々と仕事と割り切った娼婦では満足出来なくなったのでしょう。最初は平民に手を出したそうです。」


「そして学院に入学すると・・・令嬢が寄ってくるんですよ。侯爵家の嫡男ですし見目も愛想も良いですからね・・・今度は後腐れのない令嬢と遊び始めたんです」


「既にその頃には遊び慣れていた兄は女性をその気にさせる事も上手かったそうです。・・・アレクシスはその兄と見た目はそっくりです」


確かに彼はイケメンよね。

この顔で口説かれたらその気になってしまうのは分かる。


「さすがの兄も高位貴族の令嬢には手を出しませんでしたが・・・」


「その当時、兄にも婚約者がいたのですが・・・当然兄の行いは婚約者の耳にも入り婚約を破棄されました」


そりゃあそうよ。


「我が家は高額な慰謝料を支払うことになり、やっと両親も危機感を持ったようで卒業まで兄に監視をつけ休日は外出を禁止しました」


遅いって!


「それからは兄は嘘のように大人しくなりました。ですから両親も安心したのでしょう。家の中限定で兄を自由にしていましたからね」



「・・・当時私にも婚約者がいました。子爵家の次女それが妻です」


この話しの流れだと・・・


「彼女とは私の卒業後に婚姻する予定でした。彼女とは政略結婚ですが、尊重しあえる夫婦になれればと思っていました」


「私も彼女には兄に近づくなと忠告していましたし、彼女も兄が遊び人だと知っていましたよ」


「なのに・・・婚姻式の間際に彼女から告白されたのです」


『わたくしのお腹の中にはボルドー様のお子がおりますの。貴方とは仕方なく結婚はしますがわたくしの心は生涯ボルドー様のものです。この子はボルドー様とわたくしが愛し合っている証拠ですわ』


「あれほど忠告したのに私に対して申し訳なさも無く『彼は本気でわたくしだけを愛してくれていますの』それが兄の口説き文句だと言っても『わたくしだけは違う』と聞き耳を持ちませんでした」


「結局、揉めましたが両家で話し合い私の子として認知する事になりました」


「それに怒ったのは前侯爵の祖父で兄を廃嫡にしたのです。まあ、今までの事がありましたからね」


「妻は兄が追い出される時に『必ず迎えに来るからね』と適当に言った言葉を鵜呑みにして今も信じて待っているんですよ」


「ですから兄のようにならないようにアレクシスを真面目な子になるよう、横道に逸れないように大切に育てたつもりだったんです」


「ディハルト嬢をずっと思い続けるアレクシスに妻を見ているようで不安になり、留学までさせたのに・・・結局は裏切り、暴力まで振るってしまいました」


「本当に申し訳ございません。アレクシスは廃嫡にします」


・・・・・・なんて言ったらいいのだろう。


「嘘だ!俺の本当の父親がそんな最低野郎だなんて嘘だ!

そんな男と俺を一緒にするな!

母上が父上を裏切ったなんてそれも嘘だ!

俺は父上の息子だ!

それに俺はマーガレット王女と肉体関係はない!口付けをしただけだ!」


「お前さぁ、ヴィーに婚約の申し込みをしといて、他の女にキスするのは裏切りではないと言うのか?

それを世間ではお前の母親と同じ浮気と言うんだ!」


突然怒鳴り出した彼の胸ぐらを掴むルイス兄様。


「あれほどマーガレット王女には警戒しろと忠告されていて、まんまと引っかかりやがって!

あの王女のせいで何人が家族から見捨てられたのかお前は知っているのか?」


ルイス兄様の迫力に何も言えなくなった彼に、マーガレット王女の嘘で私が何をされたのか一から話して聞かせた。


今回の私に叩かれたと言う、マーガレット王女の頬には傷一つないことも・・・。


「ヴィーがそんな目に遭ったことなんて知らない・・・それにマーガレット王女がヴィーに叩かれたと言ったんだ」


「確認したのか?マーガレット王女がどんな女か知っていただろ?お前はヴィーよりもマーガレット王女を信じたんだ。二度とヴィーには近づくな」


「嫌だ!」


「『嫌だ!』じゃないんだよ!ヴィーの顔を見ろ!」


「え?ヴィー?なんでそんなに頬が腫れているんだ?」


「「「お前が殴ったからだろ!」」」


ルイス兄様だけでなく、王太子殿下とドルチアーノ殿下の声も重なった。


「・・・お、俺はそんなに強く叩いていない」


叩いたことは記憶にあるくせに謝りもしない。


いくら勉強が出来ても、賢くはない人だったんだ。


10倍返しするつもりだったけれど、もう彼には関わりたくない。


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