第27話 ドルチアーノ殿下視点
~ドルチアーノ殿下視点~
ひと目だけ、ちょっとだけ顔を見ればすぐに去るつもりだったのに・・・
ディハルト嬢が僕を含め護衛の者まで滞在を勧めてくれた。
気を使わせて申し訳ないと思う気持ちよりも、僕に対する彼女の警戒心が少しだけとけたことが嬉しくてつい甘えてしまった。
もう彼女を我儘だとか、傲慢だとは欠片も思っていない。
すべて僕の思い込みだったと・・・もう手遅れだけど再度後悔した。
滞在初日の夕食では、僕の供の者にまで同じテーブルに付くことをお願いされた。
固辞する護衛達に『みんなで食べた方が美味しいでしょう?それに、もう用意致しましたわ』
困った顔でお願いしてくる彼女にまた甘えてしまった。
実際出された食事は、新鮮なのもあって美味しく、気さくな彼女の雰囲気が遠慮する共たちの緊張もとかし会話も弾んだ。
それがよかったのか、次の日の市場では昼食は新鮮な魚介類が食べられる食堂に案内され、彼女のおススメが出てきた時は僕も護衛たちも驚かされた。
生の魚なんて初めてだったからだ。
『海鮮丼』というその料理は、彼女が考案したそうで食堂の名物料理になっているそうだ。
目の前で大きな口を開けてひと口食べる度に『お~いし~い』と蕩けるような顔を見て僕たちも恐る恐る食べてみた。
新鮮な魚があんなにも美味しいなんて知らなかった。
海のある領地はディハルト領だけではなかったが、今までの領地で生魚を提供されたことなどなかった。
実際、昨日の夕食も魚料理はすべて火を通されたものだった。
それからは彼女に案内してもらった先々で、勧められる度に何でも食べてみた。
もちろん毒見後だけれど。
彼女はどこでもよく食べ、よく笑って、周りを和ませていた。
庶民に溶け込む彼女はどこに行っても歓迎されていた。
迷子を見つければ、率先して親を探そうと動き肩車までしようとしたのには僕たちも驚かされた。
彼女よりも背の高い僕が肩車をすれば、迷子の子が羨ましかったのか『私も肩車して欲しい』と僕の護衛でも一番体格のいい騎士にお願いまでする彼女にもう何度目かも分からない驚きを与えらた。
彼女のお昼寝シートにも一緒に転がって話したり、僕もつられて昼寝をする体験もできた。
僕もいつの間にか『ヴィクトリア嬢』と呼ぶようになり、僕に慣れたのか気づけば口調も親しい友人と話すかのように砕けたものに変わっていった。
彼女と過ごす時間が楽しくてあっという間に時間が過ぎていた。
結局、2、3日滞在するつもりが1週間も甘えてしまった。
見送ってくれるヴィクトリア嬢と使用人に感謝を伝え帰路に着いた。
何度か視察の経験はあったが、こんなに楽しい視察は初めてだった。
『最後まで私達にも態度を変えない優くて、可愛らしい令嬢でしたね』
ディハルト公爵家の使用人は護衛たちにも丁寧に接してくれた。
これは他の領地では珍しい事だったりする。
『次の視察もお供させていただきたいですね』
彼らもしっかりとリフレッシュ出来たようで満足顔だ。
『そうだね。また来たいね』
次にヴィクトリア嬢に会えるのは学院が始まってからだ。
その時にも、友人のように接してくれたら嬉しいな。
王宮に戻ってからは各領地の報告書作りで僕の長期休暇は終わった。
それでも、今まで一番充実した思い出に残る休暇には違いない。
アレクシスはする事がないのか、相手をしてくれるマーガレット王女が居ないからか、騎士団の鍛錬に参加しては、リアム殿にボコボコにされていたと監視のものから報告を受けた。
体格で言えば、兄のルイス殿の方が騎士に近い身体付きだが、才能に恵まれたのはリアム殿だった。
長身だが、細いとも言える体格で眉目秀麗な顔は訓練中ですら涼しい顔で相手を簡単になぎ倒していく。
リアム殿は母方の実家、代々王宮騎士団を率いるバトロア侯爵家を継ぐに相応しく、幼い頃から天才だと一目置かれてきた。
そのリアム殿に相手をしてもらえたんだ、よかったじゃないか。
ボロボロにされたと聞いても同情は出来ない。
悪いが"ざまぁみろ"としか思えなかった。
マーガレット王女はまだ戻って来ていないようだ。
もちろんマーガレット王女のことを心配している訳ではない。
帰ってきて王女がヴィクトリア嬢を傷つけないかが心配なんだ。
あの屈託のない笑顔が消えてしまわない事が僕の願いだ。
だからマーガレット王女。
ヴィクトリア嬢を巻き込んだりしないでね。
アレクシスは届きかけていた手を自ら失った。
でも、君が失うものはアレクシスの比じゃないんだからね。
すべてを失う前によく考えて行動した方がいいよ?
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