第28話 アレクシス視点

~アレクシス視点~


王宮にヴィーと呼ばれた理由が、留学先のトライガス王国から俺を追いかけてマーガレット王女が留学してくるから警戒しろと忠告する為だった。


狙われているのは俺だけだから、ヴィーが危険に巻き込まれないように離れろとルイス殿に言われたが、そんなこと出来るわけがない。


ヴィーが俺に"惹かれている"と言ってくれたんだぞ。

もうすぐ俺の10年間の気持ちに応えてくれそうなところまできたんだぞ!


必死に訴える俺に王太子殿下も後押ししてくれた。


ヴィーも俺と一緒にいることを許してくれと頭を下げてくれた。


それにリアム殿まで・・・。


だから帰りの馬車の中で誓ったんだ。


『絶対に俺は余所見なんてしないし、ヴィーに嫌われることもしない。俺の行動でヴィーに疑われるようなこともしないと誓う』と・・・





俺はトライガスの学院で卒業資格を取っているから、別にこの国の学院に通う必要もなかった。

それでも、たった1年でもヴィーと学生のカップルや婚約者同士のように、送り迎えや、学食でのランチ、ちょっとした寄り道を共に過ごしたくて通うことに決めた。




新学期の日にヴィーと帰ろうと馬車止めまで歩いていた時に、人集りの中から俺に挨拶をしにきたマーガレット王女は、トライガスで俺に甘えた声で纏わりついていた王女とは別人かのように全然違った。


しっかりした挨拶、俺が返事をしなくても不機嫌な顔を見せることも無く、ヴィーにも微笑んで去っていった。

だが、俺を見た時の目の奥に不気味なものを感じた。

ゾワゾワと何かに絡め取られるような・・・鳥肌が立った。


それからひと月が経っても王女から俺に接触してくることはなかった。

俺を追いかけて留学までしてきたのではなかったのか?

疑問に思いながらも、俺にもヴィーにも接触さえしなければ、こちらから何か言うことはないと放っておいた。


それでも王女が目に入る度に、警戒心から目で追っていた。


ある日、担任から資料の片付けを頼まれた。

ヴィーを少し待たせることに苛立ちながらも手早く片付けてヴィーの元に急いていた時、目の端にマーガレット王女が映った。


人気の少ない旧校舎に1人で向かっているマーガレット王女を不審に思い追いかけた。


『ここには何も無いはずだが何の用でここにいる?』


気付けば俺の方から声をかけていた。


『ご機嫌ようアレクシス様、裏門の方に馬車を待たせていますの』


『そうか』


それだけ聞けば話す事は無いと背を向けた俺に『少しだけお話出来ませんか?』と聞いてきた。


『ヴィーを待たせているので失礼する』


そのまま去ろうとしたが『アレクシス様が来てくれるまで毎日ここでお待ちしております』と泣きそうな声が聞こえた。


ああ、こうやって男を手玉に取るんだな。

上手いもんだと感心するのと同時に、本当に毎日待てるのかと興味もわいた。




今、俺は10年間思い続けたヴィーに気持ちも伝えられて、ヴィーも俺に惹かれていると言ってくれ、夢のような日々を過ごしている。


登下校もヴィーと一緒だし、毎日会っていてもヴィーは変わらず妖精のように愛らしいし、何もかもが順調で気持ちに余裕が出来ていたのだろう。


俺が来るまで毎日待っていると言っていたマーガレット王女が本当に待っているのか興味本位で見に行ったんだ。


・・・本当に待っていた。

俯き、目に涙を浮かべているマーガレット王女を見て、留学中に同じクラスの男子生徒が『俺だけは違う』と言って婚約者破棄までしたにも関わらず、あっさりとマーガレット王女に捨てられ、心神喪失で学院を中退した事を思い出した。


人の気持ちを弄ぶマーガレット王女に、仕返しではないが、アイツと同じ思いを味合わせたくなったんだ。


スカーレット王女の警告を忘れたわけではない。

頭の片隅には警報の音が鳴り響いていたが、俺は他の男とは違いマーガレット王女の悪癖も知っている。

俺だけは騙されるはずはないと自信もあった。


「本当に待っていたんだな」


「アレクシス様来て下さったのですね」


すぐに目に涙を浮かべれるのも大したもんだ。

この汚れた王女に比べ、如何にヴィーが清廉なことか。


「じゃあな、ヴィーが待っている」


「明日もお待ちしております」


もっと引き止めるかと思ったが、あっさり引き下がったな。


また3日後に行っても待っていた。

それから2日後にも・・・

いつ行っても待っていた・・・


だから話しぐらいしてやるかと声をかけたんだ・・・。








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