第25話 ドルチアーノ殿下視点

~ドルチアーノ殿下視点~


王宮に戻りまずは父上に僕が今日見聞きした事を全て話した。


大きな溜め息を吐いて『ディハルト嬢の言う通り泳がせる。アレクシスは自分で10年間の思いを失ったのだな愚かで哀れな男よ。そして見限る時期と決断の早さ、ディハルト嬢は賢く聡明な令嬢だな』


確かにマーガレット王女の興味がアレクシスにだけ向けられていれば、他の子息に興味を持つことはないだろう。


だからか!

気付いてもすぐに行動しなかったのは・・・

マーガレット王女の執着は奪い取るまでだ。

まだアレクシスをディハルト嬢から完全には奪い取れていない。


それまでは他の犠牲者を出さない為に、長期休暇の間際まで行動しなかったのか。

ディハルト嬢がすでにアレクシスを見限っていることを気付かせず、少しでも長くアレクシスに執着させるために。

凄いなディハルト嬢は。


(いやいや、ヴィクトリア自身はそこまで考えていないよ?勝手にドルチアーノのヴィクトリアの評価が上がっているけど本人が聞いたら白目むくよ?)


アレクシスとディハルト嬢は婚約していない。

奪ったからといって、誰に責められる訳でもない。

それではマーガレット王女が問題を起こした事にはならない。

立ち聞きした限りでは、アレクシスを誘導するのもまだ難しいと考えているだろう。


なら、周りを味方に付けディハルト嬢に何かしら仕掛けてくるはずだ。


マーガレット王女は長期休暇中はトライガス王国に帰国する。

動くなら休み明けからだろう。


僕はその場を後にして一旦私室に戻り、アンドリュー兄上の執務が終わるのを待った。


ルイス殿の耳に入れるのは僕よりも彼女からの方がいいと思ったからだ。





『ふん、忠告までされて狙われているのを知っていたにも関わらず落ちたか。せっかく後押しをしてやった俺たちを裏切った事にも気付いていないのだろうな』


そうだよ、知っていたクセに。


『で、俺は今の状況をスカーレット王女に伝えればいいんだな』


向こうも状況ぐらい知っていた方がいいからね。


『あんな顔だけの女のどこがよかったのか俺には理解できないな』


僕もです。


『紹介された時、俺とジョシュアに婚約者がいると聞いた瞬間の目を見たか?アレクシスの次は俺たちをターゲットに選んだ目だったぞ』


ああ、あの時ね。

甘えたように上目遣いで兄上に触れようとしていた時か・・・

兄上がアリアナ嬢以外の令嬢に触れさせるワケがないよ。

僕に婚約者がいないと知れば話しかけても来なかったね。


『あんな女が王女だなんて、野放しにしていたらいつか国が潰れるぞ』


自国の貴族の婚約を何組も壊してきたからね。

相当恨まれているはずだ。

そんな王女を今まで野放しにしていた国王にも責任があるよ。


『ルイスの怒り狂った顔が目に浮かぶよ。アレクシスも馬鹿だよな。体の関係がなければいいと思っているなんてな。しかも現場を目撃されては言い訳もできないだろう。ディハルト嬢は大丈夫だったのか?』


「彼女はとっくにアレクシスを見限って、嫌悪感しかないようですよ」


『ははは・・・さすがルイスの妹だ』


報告も終わり兄上の執務室を退室した。





あれからアレクシスがディハルト嬢に話しかけている所を見かけた。


アレクシスが何かを話しかけていたが、ディハルト嬢は作り笑いで答えていた。

さっさと背を向けて歩き出すうしろ姿を冷めた目で見送っていた。


あんな顔もするんだな・・・

アレクシスはディハルト嬢の作った笑顔にすら気付かなくなってしまったんだね。




長期休暇に各地の視察を父上から命じれている。

ジョシュア兄上と手分けして領地をまわる。


僕の担当にはディハルト領があった。


リフレッシュすると言っていたディハルト嬢に負担をかけたくないと思い、対応は不要と手紙を送った。


対応が不要なら手紙を送る必要もないのに・・・

1度だって彼女からの手紙に返事を書いたこともなかったのに・・・


ただ、ちょっとだけ僕の存在を彼女の頭の隅に置いて欲しくて書いてしまったんだ。


頭の隅に置いてもらえるだけでよかったのに・・・なのにディハルト領に入ってしまえば、どうしても彼女の顔を少しだけでいいから見たくなってしまったんだ。





ディハルト家を訪ねると、彼女がいる庭園まで執事が案内してくれた。


シートに幾つものクッションに囲まれて寝ころがっていた。


執事が声をかけようとするのを手で制して、僕だけで近づいてみたんだ。


寝ているのかと思えば、考えごとをしているようで、目を瞑ったまま眉間に皺を寄せたり、口を尖らせたり、表情がころころ変わる。


『む、難しい・・・』


「何が?」


思わず問いかけてしまった。


『いや、仕返しがね・・・』


「誰に?」


会話ができていることが不思議だったんだろうね。


目を開けた彼女は僕を見て大きな悲鳴をあげた・・・


なんでだよ!

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