第14話
馬車に乗り込んで向かい合わせに座るとアレク様を意識し過ぎて顔が真面に見れない。
「ヴィーこっちを向いて」
「・・・今はちょっと無理」
「それは俺を意識してくれてるってこと?」
「そ、そうかも」
「ヴィー・・・嬉しいけれど、目を逸らすのは止めてくれ。俺をヴィーの瞳に映して欲しい。俺はヴィーとの時間を1秒たりとも無駄にしたくない。ヴィーのどんな表情も見落としたくない。だから俺は絶対にヴィーから目を離さない」
アレク様はこんなにも真っ直ぐに思いを伝えてくれる。
見た目は冷たく冷静に見えてもこんなにも情熱的。
そんなアレク様に私は甘え過ぎていたのかも。
私も正直に今の気持ちを伝えよう。
「わ、私ね、パーティー日からアレク様の真っ直ぐな気持ちが嬉しかったの・・・。毎日少しづつアレク様を知れることも嬉しかった・・・」
もう俯かない。
私も彼に向き合おう。
アレク様のように真っ直ぐに伝えよう。
煩くなる心臓は今は無視しよう。
「私は貴方に惹かれているの」
言えた。
今の私の精一杯の気持ち伝わった?
見る見るアレク様の目が大きくなり、顔を大きな両手で覆い隠してしまった。
耳が赤いから、きっと顔も赤くなっているのよね?
悪戯心がムクムクと湧いてきた。
ちょっと意地悪しようかな。
「私から目を離さないんでしょ?」
そう言うと顔を隠していた手が少しだけ下がって目だけを私に向けた。
「ヴィー卑怯だぞ。心の準備が出来ていなかっただけだからな」
恨めしそうな目を向けられても可愛いだけなんだけどな。
可笑しくなって笑っていると馬車が停止した。
もう王宮に着いてしまったようだ。
残念。もう少しアレク様と2人でいたかったのにな。
御者がドアを開けてくれるとアレク様が先に降りて手を差し出してくれた、と思ったら引っ張られてアレク様の胸に飛び込む形になってしまった。
慌てて離れようとした時、私の耳元で「全力でヴィーの心を奪いにいくからな覚悟しとけよ」なんて低音ボイスのいい声で言うものだから真っ赤になってしまった。
私のささやかな意地悪は何倍にもなって返ってきてしまった。
悔しくてう~と唸って睨んでも、彼は楽しそうに笑っている。
そのまま手を離さずエスコートしてくれるようだ。
「アレクシス、ヴィーから離れてくれないか?ここからは私がヴィーを王女様の所までエスコートする」
「ルイス兄様!迎えに来てくれたのですね」
「それもあるけど、私も呼ばれているんだよ。それよりアレクシス、ヴィーから手を離せ」
「嫌です」
キッパリ言い切るアレク様はさっきよりもキツく手を握ってくる。
「お、おま、アレクシス!」
「ルイス兄様、遅れては失礼になりますからこのまま向かいましょう?」
ルイス兄様も遅れるのは困るらしく渋々王女様の待つ部屋まで案内してくれた。
会議室のような広い部屋の中には、アンドリュー王太子殿下、ジョシュア殿下、ドルチアーノ殿下の他にリアム兄様もいて、私とルイス兄様、アレク様を含めると7人。
殿下方に挨拶を済ませ、席に座るよう勧められたけれど手を離さないアレク様とルイス兄様が私の隣に座ることを譲らないと言い張りその攻防はアンドリュー殿下の「ルイスは俺の横だ」の一言で決着がついた。
そして、ドルチアーノ殿下は私たちがこの部屋に入った時からジョシュア殿下の隣のソファに座り、私とアレク様が座ったソファの対面でいつもの様に睨んでいた。
(ふん!勝手に睨んでろ!
あのブラックな会社で揉まれてきた前世の私の精神は睨まれたぐらいでビビったりしないのだ)
取り敢えず私とアレク様だけで王女様の対応をしなくて済みそうで安心した。
私たちが座ってすぐ、王女様が部屋に入ってきた。
席を立ち挨拶しようとする私たちを手で制して座るように促された。
「ごめんなさいね帰国する前に、どうしても話さないといけない事がありましたの」
王女様の話をまとめると、私と同じ学年に王女様の妹であるマーガレット第2王女が留学してくるらしい。
彼女はとても愛らしく儚い庇護欲をそそる見た目なのだそうだ。
それを本人も理解していて、今までにも何度も婚約者のいる令息を落とし、婚約の破棄や解消の原因を作ってきたそうだ。
周りを味方につけるのも上手いマーガレット王女は、暴力は無いものの、暴言や陰口などを子息に吐かせるように誘導し、元婚約者の令嬢たちは傷つきマーガレット王女を恨んでいる人が多いそうだ。
(そりゃあそうだよ)
そうしてまで手に入れた相手も別れさせてしまえば満足し、すぐに飽きてまた他の婚約者のいる令息をターゲットにするそうだ。
(なんとも迷惑な・・・人のものを欲しがる人っているよね~)
そして、この国に留学する理由も、トライガス王国の学院でアレクシスを気に入ったものの、まったく相手にされず話しかけても無視されているうちに、本気でアレクシスのことが好きになったそうだ。
(なるほど、それで留学してまで追い掛けてくるのか~)
アレクシスを手に入れる為なら学院で何かしら仕掛けてくるだろうと。
もしアレクシスに大切な人がいたら、奪う為にその女性に何を仕出かすか分からないそうだ。
(大切な人・・・私のことよね?)
「そんな問題のある王女をこの国に留学させるのか?」
アンドリュー殿下も機嫌が悪そうだ。
「ええ、この国でもマーガレットが問題を起こした場合、あの子を廃嫡し離宮の塔に幽閉すると王が決めましたの。カサンドリア国王には許可を頂いています」
(でもな~・・・)
「そしてマーガレットを王女だからと敬う必要はありません。あの子を無視しても、厳しい言葉を使用しても構いません。遠慮は無用です。あの子が問題を起こせばすぐにご連絡を、迎えに参ります」
そう言いきったスカーレット王女でしたが、寂しそうに"どうせあの子が問題を起こすのは分かっていますから・・・" と小さく呟いた。
(スカーレット王女も妹に何かされた?)
スカーレット王女が部屋から出て行くと、みんなの視線が私に集まった。
約1名は睨んでいたけどね!
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