第15話 後半 ドルチアーノ殿下視点
最初に言葉を発したのはルイス兄様だ。
「アレクシス分かっているよな?王女が狙っているのはお前だ。学院ではヴィーから離れていろよ」
「嫌です」
「ヴィーに何かあったらどうする?」
「俺が守ります」
「お前はヴィーと学年が違うだろうが!」
こんな時だけどルイス兄様って言葉遣いが悪かったのね。
いつも私には丁寧で優しい口調だから知らなかった。
私が傷つけられないかと心配してくれているのは分かるんだけれど・・・
「まだヴィーと再会して5日しか経っていないんです!10年間ヴィーに会うことをずっと願ってきたんです!ルイス殿はそれを知っているじゃないですか!」
アレク様が私の手をキツく握り締めてくる。
アレク様の10年間を思うと胸が痛い。
「・・・」
「ルイス、10年は長いよ。アレクシスの気持ちも分かってやれよ」
「・・・私だっていつも真剣なアレクシスに10年の間に何度もヴィーと会わせてやりたいと思ったさ。俺もアレクシスを見てきたんだからな。だがヴィーは王子の婚約者候補だった」
・・・・・・。
私に異性を近づかせるなんて出来なかったんだよね?
「ルイス兄様、私なら大丈夫ですよ。こう見えて図太いのですよ?暴力がないなら負けません!なんと言っても私はルイス兄様とリアム兄様の妹で、ディハルト公爵家の娘ですからね」
ボリュームは無いけれど笑顔で胸を張る。
「だから、私がアレク様と一緒にいることをお許し下さい」
「兄上、僕からもお願いします」
リアム兄様まで頭を下げてくれるなんて。
「・・・条件は出させてもらう。が、父上にも相談してからだ」
~ドルチアーノ殿下視点~
歓迎パーティーに王族の義務として参加した。
ホールで注目を集めながら踊る彼女を見つけた。
光沢のある絹のドレスはディハルト兄妹の瞳の色と同じサファイアブルー色で銀糸で刺繍されたドレスは彼女にとても似合っていた。
兄と楽しそうに踊る姿はまるで妖精のようで素直に可愛らしいと思った。
『あの令嬢がルイスの妹?めちゃくちゃ可愛いじゃないか』
政略でありながら両想いの婚約者がいるくせに何を言っているんだよ。
『お!休憩するようだぞ。ルイスの妹に挨拶してくるわ』
ジョシュア兄上もついて行くようだから僕も便乗した。
近くで彼女を見たかったのが本音だった。
ついて行かなければよかった、と思ったのはそのすぐ後だった。
彼女を近くで見るのは3回目だ。
ほんのりと薄化粧をした彼女は、普段より少し大人びていて緊張してしまう。
こんなに近くにいても目も合わない。
ホールがザワついたかと思えば僕たちに挨拶をしてくる声が聞こえた。
『殿下方お久しぶりです』
幼い頃からの知り合いアレクシスだった。
アレクシスは隣国に留学していると聞いていたけれど、帰ってきた理由が彼女が僕の婚約者候補を辞退したからだと言う。
アレクシスと彼女の視線が交わった瞬間、胸がズキッと傷んだ。
『この10年間ヴィクトリア嬢のことを思わない日は1日もありませんでした。ドルチアーノ殿下の婚約者候補を辞退したと聞いて、居ても立っても居られず留学先から帰ってきてしまいました』
アレクシスはここが何処なのかも見えていないようで、彼女だけを真っ直ぐに見詰めていた。
アレクシスの言葉に彼女は焦っているようにも、照れているようにも見えた。
アレクシスが次に続けた言葉はプロポーズだった。
『生涯貴方を守り、命ある限り貴方だけを愛すると誓います。どうか俺と、いえ私と結婚して下さい』
僕にそんな資格なんてないのに、"やめてくれ" "彼女を奪わないでくれ" と心が叫んでいた。
『・・・お、お友達からなら・・・』
僕に何かを言う資格なんてない・・・
ただ黙って見ていることしか出来ない。
でもこの絶望感はなんなんだろう。
彼女はあの後すぐにルイス殿とリアム殿に連れ攫われるように帰って行った・・・
アレクシスも帰ってしまった。
『アイツがまだディハルト嬢を思っていたなんてな』
『アレクシスは真っ直ぐな性格ですからね』
兄上たちはアレクシスの気持ちをずっと前から知っていたんだ・・・。
幼い頃からアレクシスのことは知っていた。
真面目で無愛想な彼を、僕のように笑顔を振り撒いてもっと要領良くすればいいのに不器用なヤツだな綺麗な顔が台無しだ。なんて思っていた。
アレクシスに婚約の申し込みが殺到している事も聞こえていた。
好きな子がいるからと、すべて断っていることも。
その相手が彼女だったとは・・・
いつ出会ったのだろう?
いつ見初めたのだろう?
数日して、トライガスの王女が帰国する前に話がしたいと呼ばれた。
その席にはディハルト兄妹とアレクシスもいた。
話を聞くと、第2王女が学園に留学して来るとか・・・
その理由がアレクシス目当てだとか・・・
マーガレット王女が自国で仕出かした内容を聞けば、受け入れた父上に文句も言いたくなる。
そのアレクシスがディハルト嬢の傍にいれば、マーガレット王女に敵視されてしまう。
ルイス殿が大切な妹をアレクシスから遠ざけようとするのも分かる。
『まだヴィーと再会して5日しか経っていないんです!10年間ヴィーに会うことをずっと願ってきたんです!』
アレクシスの悲痛な言葉に答えたのは彼女だった。
『ルイス兄様、私なら大丈夫ですよ。こう見えて図太いのですよ?暴力がないなら負けません!なんと言っても私はルイス兄様とリアム兄様の妹で、ディハルト公爵家の娘ですからね』
笑って自信満々な顔で・・・
『だから、私がアレク様と一緒にいることをお許し下さい』
たった5日で2人の距離が近くなっていた事は、2人がこの部屋に入ってきた時から気づいていた。
僕は10年もあったのに・・・会話したのは2回だけ。
それも、一方的に酷い言葉を投げかけだけだ。
ディハルト嬢の手を握ることをアレクシスは許されているんだな。
僕は彼女に触れた事など1度もないのに・・・。
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