第13話

アレクシス様と庭園を横に並んで、というより手を握ぎられたまま歩く。

横からの視線が痛い・・・。


「あ、あの髪をバッサリ切ったんですね」


「願いが叶いましたから」


「願い?」


「10年前に・・・ヴィクトリア嬢と会いたくても会えなくて・・・、次に会えるまで切らないと決めたんです。まさか10年かかるとは思いませんでしたが・・・」


ポリポリと頬を掻きながら苦笑いするアレクシス様の頬がほんのりピンクに染まっていて照れているのが分かる。

それよりも気になるのは昨日から何度も出てくる"10年前"


「その、10年前とは?」


「あの王宮でのお茶会の時のことです」


ああ当時の私はデブスだったことを思い出す。


「ニコニコと笑っていたヴィクトリア嬢を見た時、本物の妖精かと思ったんです」


「よ、妖精?」


デブスの私を見て?


「そんな可愛らしい妖精に・・・あの方はあんな酷いこと言ったんです!」


いやいや、まったく気にしてなかったよ?

悲しむどころか、ヤツを泣かしてやる!と笑顔で決意した時だよ?

7歳の皮を被った中身は成人した元社会人だったからね、多少のことなら顔は笑って心は仕返しを企むぐらい屁でもなかったよ?


「それなのにヴィクトリア嬢は平気な顔をして兄上たちにお菓子を食べさせてもらって笑っていたんです。その笑顔が可愛くて惹かれたんです」


「え~と、その頃の私はデブでブスでしたよ?」


「いいえ!あの時も今もヴィクトリア嬢は妖精のように可愛いです!」


そ、そんな真剣な顔で言われると・・・

でも嘘をついているようには見えない。

本当にそう思っていてくれたんだ・・・

これはちょっと・・・いやかなり嬉しいよ。



「あ、ありがとうございます」



「!!ありがとう!俺は・・・ずっと、ずっとヴィクトリア嬢の笑顔が見たかったんだ」


私、笑顔になっていた?


そんな事よりアレクシス様の笑顔が素敵過ぎる!

昨日のプロポーズされた時よりもドキドキする。

胸が痛い・・・私、会ったばかりのこの人に惹かれている?


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「ヴィー、ヴィクトリア嬢は新学期から2学年ですよね?」


「は、はい」


「俺、いえ私も3学年で通うんですよ」


「ふふふっ、アレクシス様、"俺"でいいですよ?いつも通りの言葉遣いで話してくれないと本当のアレクシス様のことを知れませんから」


!!!


「わ、分かった」


「はい!飾らないアレクシス様の方がいいです」


「!!お、俺もヴィーと呼んでもいいだろうか?」


「はい!あ!では私も・・・あ、アレクシス様と呼んでも・・・い、いいでしょうか?」


「もちろんいいがヴィーにはアレクと呼んで欲しい」


やっぱりこの人の笑顔は素敵だ。


「明日も会いに来てもいいか?」


「はい!私もアレクシス様、いえアレク様に会いたいです!」


もっと彼と・・・、アレク様を知りたい。






その日から3日続けてアレク様は会いに来てくれた。

気さくに話せるようになるまでに時間はかからなかった。


まあ、お父様やお兄様たちは面白くなさそうだけど、頭から反対してはしていなさそう。


アレク様と明日も会う約束をして、エントランスまで見送りに行くとルイス兄様が帰ってきた。


「ルイス兄様お帰りなさい」


「ただいまヴィー、・・・アレクシスまた来ていたのか」


「学院が始まるまで毎日ヴィーに会いに来るつもりです」


ルイス兄様青筋が立ってる!


「明日はダメだ!トライガスの女王が帰国する前にお前たちに話がしたいそうだ」


「え?私とアレク様と話し?」


「・・・・・・イヤです、ヴィーと過ごす時間が減る」


アレク様、ルイス兄様を睨まなくても・・・


「お前が行かなくてもヴィーは連れて行く!」


チッ!

アレク様って舌打ちが似合う!

それもどうなんだって事だけど。


「分かりました!行きますよ!ヴィー明日は一緒に行こう。俺が迎えに来る」


前半は投げやりにお兄様へ、後半は私を優しく誘ってくれた。


ルイス兄様が歯ぎしりしているけれど、どうせ2人とも呼ばれているなら一緒に行った方がいいよね。


「はい、お待ちしております」







それにしても王女様が私たちに一体どんな話があるんだろう?


服装とかお母様に相談しよう。





私は今、アイスブルーのドレスを来てアレク様の到着を待っている・・・

お母様が選んだドレスがこの色だったんだよ~

私は違う色を選ぼうとしたけれど、無言の笑顔が怖くて変更出来なかったんだよ~

アイスブルーって、アレク様の瞳の色だよ?

まるで私がアレクの婚約者みたいで恥ずかしいんだけど!


私が脳内で恥ずかしくて暴れている間にアレク様が到着した。


「・・・ヴィー、その色・・・とても似合っている」


アレク様の声で正気に戻れた。


口もとを隠しながらも、真っ直ぐに私を見つめる目は、あのパーティーの日から変わらない。


彼の強い眼差しが私を好きだと常に言っている・・・。


まだ彼と会うようになって日も浅いというのに、ずっと前からの知り合いのような・・・気がしてくる。


この真っ直ぐな彼の気持ちから目を逸らしたらイケない気がする。


「2人とも見詰め合うのはそのくらいにしなさい。時間に遅れるわよ」


お母様の声で慌てて馬車に乗り込んだ。


「「・・・行ってきます」」

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