第12話 アレクシス視点

夢かと思った。

あんなに会いたくて、会いたくて、会えなくても忘れることも出来なかったヴィクトリア嬢があの大きくて綺麗な目に俺を写している。


もうここしかないと思った。

次、いつ会えるかも分からないんだ。


気がつけばヴィクトリア嬢の前で跪いて手を握っていた。


『アレクシス・ハイアーと申します。この10年間ヴィクトリア嬢のことを思わない日は1日もありませんでした。ドルチアーノ殿下の婚約者候補を辞退したと聞いて、居ても立っても居られず留学先から帰ってきました』


『は、はい』


ヴィクトリア嬢の笑った顔が見たい。


『生涯貴方を守り、命ある限り貴方だけを愛すると誓います。どうか俺と、いえ私と結婚して下さい』


あの時、何も話せなかった俺の口からはスラスラと言葉が出てくる。


『・・・お、お友達からなら・・・』


!!!

友達からでもいい!

俺の事を知って欲しい。

ヴィクトリア嬢の事をたくさん知りたい。


ルイス殿とリアム殿が慌てて妖精を抱えて去って行くなかヴィクトリア嬢が振り返ってあの時のように小さく手を振ってくれたんだ。


『あ、明日挨拶に伺います』と、自然と言葉が出ていた。


もっと話したい。

もっと会いたい。

もっと近づきたい。


「おいおいアレクシス、こんな場所でプロポーズか?」


呆れたようにアンドリュー殿下に言われる。


「みんなから注目されていたよ」


ジョシュア殿下も呆れ顔だ。でも「誰が見ていようと関係ありません。俺はずっと、ずっと何年も彼女に会いたかったんです。彼女の笑った顔が見たかったんです」


この時になって会場がざわついてることに気づいたが、そんな事はどうでもよくて、明日になれば彼女にまた会えることの方が大事で、俺の後ろにいたドルチアーノ殿下の存在すらも忘れていた。


明日は俺に笑顔を見せてくれるだろうか?





帰ってから父上の執務室に呼ばれた。


帰国して休む間もなくパーティーに参加させられて、結果を見ればヴィクトリア嬢に会えたからいいものの、もう休ませて欲しい。

明日は大切な約束があるんだから。


「お前は帰ってくるなり何をやっているんだ?」


「フリーになった彼女にプロポーズしました」


「はぁ、トライガス王国でいい娘はいなかったのか?」


「いい娘?気になる女性のことですか?」


「それしかないだろう!」


「どこにもいませんでしたよ?だってヴィクトリア嬢はトライガス王国にはいませんでしたからね」


「・・・そんなにディハルト嬢がいいのか?」


「はい」


「・・・気持ちは変わらないんだな?」


「生涯変わることはありません!」


「分かった。ワシからもディハルト公爵に話してみるが期待はするなよ」


「お願いします!でも明日ディハルト家に訪問すると伝えています」


「・・・もういい、さっさと寝ろ」


父上は部屋から去れというように手を振った。

仕事が忙しいのか疲れているようだ。


2年ぶりの自室は出て行った時のままで、やっと帰ってきたと実感が湧いてきた。


目を瞑ればヴィクトリア嬢の驚いた顔、頬を染めた顔、困った顔が次々浮かんでくる。

まだ笑顔を見せてくれていないが、明日は見せてくれるだろうか?


やっと会えた・・・

長かった・・・

明日が楽しみだ・・・

おやすみヴィクトリア嬢・・・





目が覚めたらもう昼前だった。

一瞬昨日のことが夢だったんじゃないかと慌てて飛び起きた。

ソファの上に昨日のパーティーで俺の着ていた衣装が脱ぎっぱなしで掛けているのを見て現実だったんだと、この後会えるのだと嬉しくて顔がにやけてしまう。


急いでメイドを呼んで髪を切ってもらった。


そのまま食堂に行く。

この時間なら朝昼兼用だな。


食堂では母上がお茶を飲みながら俺を待っていたようだ。


「おはようございます」


「おはようアレクシスよく眠れた?」


「はい」


「髪を切ったのね」


「はい、願いが叶いましたから」


俺が妖精・・・ヴィクトリア嬢に初めて会った日から母上だけが俺の味方だった。

彼女がドルチアーノ殿下の婚約者候補に上がり、皆に諦めろと言われる中、母上だけが俺に無理して諦める必要はないと言ってくれていた。


「昨日あの後大騒ぎになったのよ」


俺もすぐに帰ったから後のことは知らない。


「帰ってくるなりディハルト嬢にプロポーズするなんてやるじゃない!」


「もう誰にも邪魔されたくなかったんです」


「アレクシスが留学中ね、ドルチアーノ殿下がディハルト嬢を嫌っているって噂があったのよ。だからディハルト嬢が選ばれることは絶対に無いと言われていたわ」


嫌っている?バカなのか?

見る目がないな。

嫌いならとっとと彼女を解放すればよかったんだ。


「おかげで俺にもチャンスが巡ってきましたから感謝していますよ」


「頑張りなさい」


「はい、この後ディハルト公爵家に訪問すると先触れを出しています」


「それにしても以前見た時も可愛らしいお嬢さんだったけれど、美しい令嬢に育っていたわね。狙っている男は多いはずよ!負けるんじゃないわよ!」


「誰にも負けません!」


この時のために誰よりも努力してきた。

俺がヴィクトリア嬢を幸せにしたいし、笑顔を引き出したい。




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