第11話 アレクシス視点

トライガス王国に留学させられていた俺の元に母上から手紙が届いた。


手紙には俺の妖精が第3王子の婚約者候補の辞退を申し込み、それが承認されたと書かれていた。

すぐにでも帰国しようとしたが、手紙の最後に卒業資格を得るまでは帰国は許さないと書かれていた。


そこからは寝る間も惜しんで勉学に励み、残り1年半ある在学期間を1年短縮し見事卒業資格を得た。

これで国に帰れる。

次こそは出遅れたりしない。

必ず妖精を振り向かせてみせる。

そう決意した。




俺が8歳の時に王宮で開かれたお茶会で見つけた妖精が、あの生意気な王子からやっと解放された・・・


あの日母上に無理やり参加させられ、近づいてくる令嬢を無視し続け不機嫌なままテーブルに座っていると会場内が騒がしくなった。


皆の視線の先には兄弟だろう2人に手を繋がれニコニコしている可愛らしい少女がいた。


背中には羽が見えたから本物の妖精だと思った(あとから母上にあれはリボンだと教えられた)

あんまりにも幸せそうな笑顔に心が奪われ、目が離せなくなっていた。


妖精は家族と一緒に王族に挨拶に行き、小鳥のような可愛い声で挨拶したにもかかわらず、第3王子は『ふん!お前公爵令嬢のくせにデブでブスだな。嫁のもらい手もないだろうな!』と酷い言葉を投げかけられていた。


妖精になんて酷いことを!

俺が席を立とうとすると母上に『今は我慢しなさい』と止められた。


そのあと何事も無かったように、俺の隣りのテーブルに付き兄弟たちが差し出すお菓子をパクパクと幸せそうに食べる姿があまりにも可愛いくて見惚れた。


妖精たちが席を立ち帰ろうとしているのを見て慌てて声をかけようとしたけれど、話すことを考えていなかった俺は「あっ」と一声発しただけで呼び止めることも出来なかった。


なのに、妖精は振り向いて俺に小さく手を振ってくれたんだ。"またね"って言われた気がしてまたすぐに会えると思っていたんだ。

次に妖精に会えるまでに10年もかかるとはその時の俺は思いもしなかった。


『ディハルト公爵家が大切にしていると噂のヴィクトリア嬢は本当に可愛い子だったわね。頑張りなさいよアレクシス』


ヴィクトリア嬢・・・本物の妖精かと思った。


母上はくすくす笑いながら俺を揶揄うが、俺はヴィクトリア嬢を誰にも渡したくなくて母上に婚約の申し込みを頼んだ。

だが、婚約の申し込みには当主のサインが必要で領地に視察に行っている父上が帰ってくるのは2週間後だった。


まさかその間にヴィクトリア嬢があの第3王子の婚約者候補にあがるなんて思いもしなかった。

あんな酷いことを言っていたくせに、俺から奪うのかと悔しくて憎くて・・・。


父上が帰ってきても、申し込みすら出来ないことに駄々を捏ねて泣いた・・・

泣いて部屋に閉じこもった俺に『候補は7人いる。王子にあの子が選ばれなかった時にお前が選ばれるように今は学べ、鍛えろ、自分を磨け』と言われた。


その日から俺は次にヴィクトリア嬢に会えた時に恥ずかしくない自分になりたくて勉学にも鍛錬にも力を入れた。礼儀作法は苦手だったが少しづつ身につけていった。




月に1回、王宮の騎士団の鍛錬場で希望する貴族の子息を練習に参加させてくれる制度があり、俺もそれに参加するようになった。


そこでルイス殿とリアム殿を見つけ、ヴィクトリア嬢に会わせて欲しいと会う度にお願いした。

だが、"王子の婚約者候補だから他の男に会わす訳にはいかない"と断られ続けた。

単純に溺愛する妹を男を会わせたくないだけだろう!とは思ったが、それでも執拗く何度もお願いした。

それは俺が留学させられるまで毎月続いた。



父上にトライガス王国に留学させられたのも俺に見聞を広めさせる事を理由にしていたが、きっとヴィクトリア嬢を諦めさせるつもりだったのだろう。


だがトライガス王国に留学したところで俺の中からヴィクトリア嬢への気持ちが消えることはなかった。


あのいけ好かない男に嫁いでしまえば不幸になるのは目に見えていることだけは確かだ!

ヴィクトリア嬢の不幸な姿など想像もしたくない。

妖精は幸せになってこそ、あの可愛らしい笑顔になるんだ。


出来るなら俺がヴィクトリア嬢を笑顔にしたい・・・

そして、その笑顔を一番近くで見たい・・・


そのチャンスがやっと俺に訪れたんだ・・・





留学先で卒業資格を得たあと、すぐに帰国するつもりが足止めにあったが、何とかカサンドリア王国に帰ってきた。


着いたその日、王宮ではトライガス王国から訪問してきている使者の歓迎パーティーがあるとかで、無理やり参加させられた。


王族に帰国の挨拶だけして帰ろうと会場を見渡すと、タイミングのいい事に王子三兄弟とルイス殿にリアム殿まで一緒にいた。


そこへ向かっている最中に何度か呼び止められた気もしたが全て無視して彼らに声をかけた。


『お久しぶりです殿下方』


『『『アレクシス!』』』


『ルイス殿とリアム殿もお久しぶりです』


ルイス殿にすごく嫌そうな顔をされた。


『いつ帰ってきたんだ?』


『たった今ですよ』


『もう1年留学期間があったはずだろ?』


俺が帰ってきたらダメなのかよ!


『はい、ですが彼女が婚約者候補を辞退したと聞きましたので、帰ってきました』


チラリとドルチアーノ殿下を見れば目も合わない。どこか一点を見ているようだった。


『お前まだ諦めていなかったのか?』


愚問だな。

諦められるわけがないだろ?


『はい、何年経とうと俺が諦めることはありません』


その時、ジョシュア殿下とリアム殿が動いた先に、あれだけ会いたかったヴィクトリア嬢が大人の姿に成長して目の前に現れたんだ。

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