第10話
帰りの馬車の中で兄様達が何やら騒いでいたけれど、あまり頭には入ってこなかった。
お父様とお母様も急いで帰ってきて、兄様達に説明を求めていた。
私たちが会場を去ったあと、ホールは大騒ぎになったらしい。
そして分かったことは彼の名前。
ハイアー侯爵家の嫡男アレクシス・ハイアー子息。18歳。私よりも1歳年上。
2年前からトライガス王国に留学していたこと。
ハイアー様の明日の訪問が気に入らないお父様と兄様達は何かしら理由をつけて私と彼が会うことを阻止しようと相談するも、お母様の『あの方よりも何倍もマシでしょう?10年間1度も会わずとも一途にヴィーを思っていた彼はわたくしに言わせれば優良物件です!ヴィーの幸せも考えてあげなさい!』で、撃沈・・・
それでも納得のいかないルイス兄様は同席すると言い張り、2人の邪魔をするなとお母様の鉄拳を受けていた・・・(ルイス兄様、明日も仕事があるでしょう)
お母様強し・・・
その夜はドキドキして眠れる気がしなかった。
だって初めての告白だよ?
あんなにカッコイイ人からだよ?
キャーーー嬉し恥ずかしでベットの上でゴロゴロしちゃう。
ハァハァハァ・・・冷静になろう。
第一印象は確かに良かった!
だけど、彼の性格を知るのも大事よね。
・・・真っ直ぐ見つめられて目を逸らすことも出来なかった・・・。
もうOKでいいんじゃない?
いやいや、早すぎる決断は失敗のもとよ!
でも、あんなに真剣な目で熱烈な告白されて断れる人いる?
あの最低男と比べたら、間違いなくハイアー様の方がいいよね?
彼なら・・・いいかも?
待て待て待て!落ち着け!深呼吸だ。
こんな状態で明日ちゃんと話せるのかしら?
しっかり眠れた・・・私って自分が思っているよりも図太いのね。
朝食の席でもお父様とルイス兄様がグダグダ言ってる・・・
「大丈夫ですよ。僕が同席しますから父上と兄上は安心して仕事に行って下さい」
「「リアム頼んだぞ!」」
もう!そこまで心配しなくてもいいのに。
お父様とルイス兄様が王宮に出勤後、ハイアー様から先触れが届いた。
昼過ぎに挨拶に伺うって!
「お母様、こんな時はどんな服を着ればいいのでしょうか?」
「いつも通りでいいわよ」
それってワンピースよね?
じゃあ化粧もいらないよね?
気合い入れ過ぎるよりも、いつもの私を見てもらった方がいいよね?
春らしくライトグリーンのワンピースに、髪はハーフアップで同じ色のリボンを結んでもらった。
鏡で確認しても、うん、いつもの私だ。
昼食を食べ終わりひと息ついたところにハイアー様の到着を知らされた。
ドキドキしながらハイアー様が通された応接室に向かうと、既にリアム兄様も中で待っていた。
昨日は腰まであった髪が短くなっている!
長髪も似合っていたけれど、私個人としては短髪の方が好きだからこっちの方がいいかな。
私が部屋に入ると焦ったようにハイアー様が立ち上がろうとしてガッと何かをぶつけたような音がした。
慌てて脛でもぶつけたのかな?
見た目冷たそうに見えてもやっぱり可愛いところがあるよね?
そんなハイアー様のおかげで緊張がとけたようだ。
「お待たせ致しました。ご機嫌ようハイアー様」
「い、いえ待たされていません・・・ヴィクトリア嬢は今日も妖精のように可愛いですね」
は?ようせいとは?陽性?まさか妖精?
ほんのりと頬を染めて真剣な顔でそんな言葉を言ったハイアー様の目は真っ直ぐに私を見つめてくる。
彼のそんな眼差しに胸がドキドキする。
「落ち着けアレクシス。ヴィーは僕の隣に座ってね」
「はい、リアム兄様」
「す、すみません」
「ところで何でアレクシスがヴィーをヴィクトリア嬢って呼ぶの?」
「俺、いえ私は出会った時から心の中でずっとそう呼んでいましたから・・・ダメですか?ヴィクトリア嬢」
「ふふふっいいえ、大丈夫ですよ」
つい笑ってしまう。
冷たい雰囲気の彼が叱られた小犬のような顔をして聞いてくるんだもの。
「ありがとうございます!ヴィクトリア嬢。お、私のことはアレクシスとお呼びください」
「はい、アレクシス様」
なんか良いな、アレクシス様。
「2人とも僕の存在を忘れないでね」
「・・・まだ居たんですねリアム殿」
「随分親しそうですが、リアム兄様とアレクシス様はお知り合いだったのですか?」
「・・・昔から知っているよ」
「はい、ヴィクトリア嬢に会いたくてルイス殿とリアム殿に会う度に会わせて欲しいとお願いしていました」
え?そんなこと知らないわ!
リアム兄様を見れば目を逸らされた。
「仕方ないよね?ヴィーは第3王子の婚約者候補に上がっていたんだから、他の男を近づけるワケにはいかなかったんだよ」
それもそうなんだけど、一言教えて欲しかったな。
「10年待ちましたが、候補を辞退された事でこうしてヴィクトリア嬢に会えることが出来て嬉しいです」
見た目のイメージよりも素直で可愛いよね!
「・・・ヴィーの前だと君、普段と全然態度が違うね」
「何を言っているんですか?当たり前ではありませんか。ヴィクトリア嬢は私の唯一無二の方ですよ?」
当然のようにアレクシス様は言っているけれど、そんな直球で言われると恥ずかしくて自然と顔が火照ってくる。
はぁとリアム兄様は大きな溜め息を吐いて席を立った。
「2人で話したい事もあるだろ?ゆっくり庭園でも散歩しておいで」
そう言って部屋から出て行った。
「アレクシス様、我が家の庭園を案内しますわ」
私は普段から兄様たちのエスコートに慣れているけれど、アレクシス様がぎこちなく差し出した手は女性のエスコートに慣れていなさそうなところも好感が持てた。
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