第9話
『スカーレット・トライガス王女殿下のご入場~』
紹介者の声がホールに響く・・・
海外からの使者に王女様が含まれていたの?
赤い髪に赤い瞳。
白い肌に知性のある瞳、スッキリとした鼻梁、真っ赤な口紅もよく似合っている。
そして魅惑的なスタイル。
王女様のような方を絶世の美女って言うのね。
王女様から目が離せなくて続く使者の方の紹介は耳には入ってこなかった。
国王様と王女様との挨拶が終わり、国王様の開始の言葉でパーティーが始まった。
ホールの中央ではダンスを踊るお父様とお母様も見える。
「ヴィー、私と踊ってくれるかい?」
ルイス兄様が跪いて手を差し出してくる。
その顔はイタズラっ子のよう。
私の手は自然と兄様の手に乗せていた。
「ヴィー、次は僕だからね」
「はい!行ってきます」
リアム兄様に送り出されルイス兄様と中央のダンスの輪に入って行く。
「ヴィーの初めてのダンスの相手が私で嬉しいよ」
「私もです!緊張してますが頑張りますね」
いつもルイス兄様とリアム兄様が練習に付き合ってくれていたから思いのほか、すぐに緊張もほぐれ楽しく踊れた。
ルイス兄様はキリリとしたお顔が崩れっぱなしだったし、甘いお顔のリアム兄様は優しく微笑みながらだったから、周りの令嬢からの黄色い悲鳴があちこちから聞こえた。
兄様たちが騒がれるのも納得だ。
こんな素敵な2人が私の兄なのよ!
変な優越感に浸りながら2曲のダンスを踊りきった。
それから疲れただろっと言ってホールに用意された壁際のソファに座らせてくれた。
突然ルイス兄様がチッと舌打ちした。
珍しいなとルイス兄様が見ている方に視線を向けると、アンドリュー王太子殿下、ジョシュア殿下、ドルチアーノ殿下がこっちに向かって来ていた。
「おい!ルイス!お前の妹がこんなに可愛いなんて聞いてないぞ!」
チッ!
私が挨拶しようと立ち上がろうとするのを止めたルイス兄様からまた舌打ちが・・・
「言いましたよ?私の妹は世界一可愛いとね」
兄様!そんなこと外で言ってるの!
やめて!シスコン過ぎて恥ずかしいよ!
「ディハルト嬢、卒業式以来だね」
「そうですね」
ジョシュア殿下は相変わらずマイペースだ。
隣では王太子殿下とルイス兄様がまだ言い争っている・・・不敬罪とかにならないのかな?
「それにしてもディハルト兄妹が3人揃うと圧巻だね」
なにが圧巻なんだろう?
それに、ドルチアーノ殿下何しに来たんだろう?
何も言わず、ジョシュア殿下の後ろで以前同様ずっと私を睨んでるんだけど・・・そんなに私が嫌いか?
・・・もう赤の他人だしほっとこう。
リアム兄様とジョシュア殿下も何やら話し込んでるし、暇だな~なんて思っていたらホールが騒がしくなった。
背の高い男たちが私を囲んで会話しているからホールで何があったのか気になっても全然見えない。
それに私座ったままだしね。
「お久しぶりです殿下方」
誰かが挨拶に来たの?
「「「アレクシス!」」」
アレクシス様って方ね。
「ルイス殿とリアム殿もお久しぶりです」
皆んなアレクシス様の知り合いなんだ。
「いつ帰ってきたんだ?」
「たった今ですよ」
声しか聞こえないけれど、低音ボイスが耳に心地いいわね。
「もう1年留学期間があったはずだろ?」
「はい、ですが彼女が婚約者候補を辞退したと聞きましたので、帰ってきました」
ん?
「お前まだ諦めていなかったのか?」
ルイス兄様が呆れたように言った。
「はい、何年経とうと俺が諦めることはありません」
目の前のジョシュア殿下とリアム兄様が横にズレると薄い水色の腰まである真っ直ぐな長い髪をひとつに纏め、切れ長でアイスブルーの瞳の冷たい印象のスッゴイ美形がいた。
その彼が視線を下に向けると私と目が合った。それだけでドキッと胸が高鳴った。
彼は驚いた顔をしたあと、突然私の前で跪いて手を握ってきた。
「アレクシス・ハイアーと申します。この10年間ヴィクトリア嬢のことを思わない日は1日もありませんでした。ドルチアーノ殿下の婚約者候補を辞退したと聞いて、居ても立っても居られず留学先から帰ってきてしまいました」
「は、はい」
な、な、な、何が始まったの?
「生涯貴方を守り、命ある限り貴方だけを愛すると誓います。どうか俺と、いえ私と結婚して下さい」
ぷ、ぷ、ぷ、プロポーズですと!!
こ、こんなの前世でも経験したことないよ!
ど、ど、ど、どうしたらいいの?
こ、ここはあれよね?
あ、あのセリフを私も使う時が来たのね!
「・・・お、お友達からなら・・・」
「「ヴィー!!」」
お兄様たちの焦る声が!
あれ?私なにか間違えた?
でも、しっかりと私の手を握っている冷たい印象の彼が真っ赤になって一生懸命思いを伝えてくれたんだよ?
それも10年間も私を思ってくれていたって言ってくれたんだよ?
それだけで彼の好感度が私の中で上がるのは当然でしょう?
でも・・・私・・・彼のことアレクシスって名前しか知らないんだよね。
それから兄様2人に抱えられるようにしてその場を後にした。
振り向くと「あ、明日挨拶に伺います」と、まだ赤い顔のアレクシス様がそう言うので、兄様達にバレないようにこっそりと小さく手を振った。
冷たい印象の彼の照れた顔も可愛いと思ってしまったんだよね。
その横でドルチアーノ殿下が固まっている姿なんて目にも入らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます