第6話 ドルチアーノ殿下視点

~ドルチアーノ殿下視点~


僕は自分が嫌になる。


あれ程彼女から届くプレゼントも手紙も気味悪がって見もしなかったのに・・・。


お礼も返事も送らなかったのに・・・。

大体彼女の誕生日すら知ろうとしなかった・・・。

本当に僕は最低だ。


彼女が僕の婚約者候補になって初めて、今年の僕の誕生日にプレゼントが届かなかった。

貰って当たり前・・・僕はいつからこんな傲慢な人間になっていたんだろう?


それでも理由が知りたくてはじめて僕から彼女に声をかけた。

口調だけは気をつけよう。




『・・・おい!』


ダメだ!

なんでこんな口調になるんだ!


あれ?耳が悪いのかな?


『おい!』


本当に聞こえてないのかな?


『おい!』


ダメだ。

キツい口調になる。


彼女以外は聞こえているのだろう、僕の顔を皆んな見ているからな。

リアム殿は珍しく怒った顔をしているが・・・


振り向いた彼女はやはり美しい。


『お前俺の誕生日プレゼントはどうした?』


なんで僕はこんな言い方になるんだ?


キョトンとした顔も可愛いと思う。

なのに、また僕に背を向けて何事も無かったかのように食事を再開させている。

まさか、自分に話し掛けられていると思っていないのか?


『おい!お前だ!いい加減にしろよ!』


つい彼女の肩に触れようとしたが、その前にリアム殿にすぐに払い除けられた・・・


『・・・何故付き合いもない貴方に赤の他人の私がプレゼントをしなければならないのですか?』


え?他人?君は僕の婚約者候補だろう?


『はあ?お前は俺の婚約者候補だろうが!』


まただ、普段通りの口調が出来ない。


『いいえ違いますよ?私は辞退しましたから』


そんなこと誰からも聞いてない!


『嘘を言うな!』


なんでだ?なんで僕の胸はこんなに痛いのだろう?


『本当ですよ。帰ったら確認して下さい』


嘘だ、嘘だ・・・


『分かれば僕の可愛い妹のヴィーに二度と話しかけないで下さいね』


リアム殿まで彼女の言葉を認めた。

じゃあ本当なのか?

彼女はもう僕の婚約者候補じゃないのか?


鈍器で頭を殴られたような気がした。

そして頭が真っ白になった・・・





トントンと部屋のドアをノックをして入ってきた侍女に食事の用意が出来たと伝えられた。


僕は午後からの授業を受けたのか?

どうやって帰ってきたんだ?

気づいたら王宮の自室にいた。


そうだ!父上に確認しなければ!






彼女の言ったことは本当だった。

彼女が17歳を迎えるまでに僕と少しでもお互いが尊重し合える関係が築けなければ辞退できると、父上とディハルト公爵との間で約束があったようだ。


そんな約束は知らない・・・。

知らなかったんだ・・・。




ふっ・・・今さらだな。

僕は彼女を選ぶつもりはなかっただろ?

他の候補の令嬢にはプレゼントのお礼もお返しもしていた、ちょくちょく来る手紙にも無難な手紙を返していた。


僕が彼女だけを拒絶していたんだ・・・それが返ってきただけだ。


10年、10年間も彼女は僕のこんな仕打ちに耐えてきたんだ。

どうせならもっと早く解放してあげたらよかった・・・。

初めから彼女を選ぶつもりなんかなかったのだから・・・。




「ドルも馬鹿だよね」


気が付けば兄上達が僕の座っているソファの対面に座っていた。


「今日の食堂での一件見ていたよ」


ジョシュア兄上


「兄上たちは彼女が辞退した事を知っていたのですか?」


「もちろん知っていたさ」


アンドリュー兄上


「なぜ教えてくれなかったのですか?」


「知っていたら何か変わっていたのか?あの子が辞退してから知ってもどうにもならないだろ?今さらだ」


「ディハルト嬢が私の婚約者候補だったなら例え幼い頃見た目が悪くても彼女を大切にしていたよ?あのディハルト公爵家の娘なんだよ?素敵な令嬢に育つに決まっているだろう?」


確かに・・・今ならそれが分かる。


「まあ彼女の辞退が認められたお陰でルイスが俺の側近になってくれたから結果これでよかったんだよ」


ああ、兄上が何度頼んでもルイス殿は首を縦に振らないと嘆いていたな。

父上もルイス殿には昔から目をかけていた。

いや、ルイス殿だけでなくリアム殿もだ・・・


ルイス殿が兄上の側近を決めたのは彼女の辞退が認められたからか・・・

リアム殿だけでなくルイス殿にも僕は嫌われていたんだな。

そりゃあそうだろ。

彼女が家族から溺愛されていると噂が僕の耳にも届いていたんだから。

その彼らの大切な妹を・・・僕は最低だな。


「まっ、諦めろ。お前にはまだ6人も婚約者候補がいるんだしな!」


「あと1年後にはドルもその6人の中から婚約者を選ばないとならないからね」


あの中から選ぶ?

実感がわかない。

誰を選んでも同じ気がする。

これが政略結婚・・・

だから少しでも交流して為人を見極めなければならなかったのに・・・

僕がしていたのは本当に交流だったのか?

ただいい顔していただけなのではないのか?


僕が愚かだった事も、人を見る目がなかった事も分かってしまった。


もう優柔不断なことはやめよう。

愛想笑いをするのもやめよう。

将来を共にする相手ならせめてお互いが尊重しあえ、穏やかに過ごせる人を選ぼう。

そのうち愛という感情が芽生えることを祈って・・・。

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