第5話 ドルチアーノ殿下視点
~ドルチアーノ殿下視点~
出会いは約10年前。
僕が8歳の頃だ。
王宮で開かれたお茶会で子供の僕から見ても見目麗しい家族の中で1人だけ太っている令嬢がいた。
『ドル気をつけろよ?甘やかされて育った令嬢は我儘で傲慢になるパターンが多い。そんな相手を選ぶと将来困るのはお前だからな、慎重に相手を見極めろよ』
お茶会の前に3歳年上の1番上の兄に助言された。
会場内では両親に連れられ着飾った令嬢たちが順番に僕に挨拶に来てくれた。
どの子も普通に可愛いと思った。
なのに我が国の宰相一家、ディハルト公爵家の令嬢は真ん丸な顔で太っていた。
きっと末っ子だから甘やかされて育ったんだ。
兄上が言っていたのはこんな令嬢を選ぶなって事だと思った。
だから兄上の言葉遣いを真似て『ふん!お前公爵令嬢のくせにデブでブスだな。嫁のもらい手もないだろうな!』なんて事を言って僕の婚約者になりたい等と言いださないようワザとキツい口調で言った。
茶会の後、父上と母上に呼び出され盛大に叱られた。
僕にアドバイスをした兄上も余計なことを言うなと怒られていた。
それから少しして、何人かの令嬢が僕の婚約者候補にあがった。
その中に彼女が含まれていた。
僕だって王子教育を受けている。
政略結婚の意味だって分かっている。
ディハルト公爵家の令嬢と婚姻するのが、国の為になる事も理解している。
なのに僕は彼女のことを何も知らないまま外見だけで判断し酷い言葉を投げてしまった。
あんな酷いことを言った僕を彼女も、彼女の家族も許してくれないと思った。
だから、たとえ候補者だとしても彼女を選ぶつもりはなかった。
なのに僕の誕生日が来る度に毎年プレゼントが届くし、年に何度か手紙も送られてくる。
大勢の前であんなに酷いことを言ったのに、僕の婚約者になりたくて媚びていると思ったら気持ち悪くてプレゼントを開けることも、手紙を読むことも出来ず、こっそり処分してもらっていた。
それに僕からお返しをして勘違いされるのも嫌だったから彼女の誕生日も無視した。
今思えば最低だった。
そして僕が2学年に上がった時に彼女が入学してきた。
新入生代表で彼女の名前が呼ばれ壇上に立った人物はデブでもブスでもなく、目を奪われる程の美しい令嬢だった。
一瞬別人かとも思ったが、ディハルト公爵やその息子達と同じ銀髪で、幼い頃の面影も残っていた。
今の学院に僕の婚約者候補のうち6人が揃った。
残りの1人は来年入学してくる。
いつも僕の周りを彼女を除いた5人が囲んでいる。
馴れ馴れしくベタベタと触られ、キツい香水の匂い、媚びるような目、僕のいない所では傲慢に振る舞っている姿を何度も見かけた。
それでも僕から注意をする事はしなかった。
昔は可愛く見えた令嬢達だったが・・・それでも笑顔で紳士的に対応していた。
何れはこの中から選ぶことになるのだからと・・・
たまに見かける彼女は、いつも笑っていた。
美しい所作はさすがは公爵家の令嬢だと思った。
なのに、傲慢に振る舞う事もなく、友人に囲まれ、困っている人には声をかけ、平民にも態度を変えることもない素晴らしい令嬢だった。
本当に僕は見る目がなかった。
それどころか見た目だけで判断してしまったんだ。
彼女が見目が良くなったからって目で追うなんて最低だ。
食堂で彼女を囲んで和気藹々と友人達と楽しそうに過ごす姿は周りからの羨望を集め、子息からは恋慕の眼差しで見つめられている。
特にリアム殿が隠しもせず彼女を溺愛しているのは誰の目にもあきらかだった。
彼女が僕を拒絶している事は、入学してから一度も僕に挨拶にも来ないのが証拠だ。
当然だ。初対面で勝手に我儘だと決めつけてあんな言葉を吐いたのだから・・・
気づいたら彼女の姿を探し、見つけると目で追っていた。
たまに目が合うと、それまで笑顔だった彼女から表情がなくなる。
・・・完璧に嫌われている。
「まあ、ディハルト嬢ですわね」
「殿下、そんなに睨むほど嫌わなくても・・・」
「殿下がディハルト嬢を嫌っているのは学院の全生徒が知っていますものね」
周りの令嬢がそんな事を勝手に言っているが、睨んでいるつもりはない。
目が合った瞬間に緊張で体が強ばるだけだ。
僕が嫌っているんじゃない。
彼女が僕を嫌っているんだ。
いや・・・彼女にとって僕など眼中にも無いのだろう・・・。
ズキリと胸が痛むのは気のせいだ。
それから暫くして、いくら僕が目で追いかけても彼女と目が合う事がなくなった・・・。
まるで彼女には僕が見えていないようだった。
その理由が分かったのは、彼女の目に僕が映る事がなくなってから数カ月後のことだった・・・。
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