最終節③魔力適正ゼロの俺が大賢者となって復讐を果たすまで
禍々しい魔力を纏い、長身細身の男は玉座に居た。
豪奢な飾りがある訳でもなく、だがしかし素材は一級品なのだとわかる玉座は鈍い光沢を放っていた。
「ほう? アンナロッテに取り入ったか」
杖をゆっくりと床に置き、そのまま傅く。
「攻撃の意思は無い。俺はアンタと取引しにきた」
「取引だと?」
魔王と呼ばれるだけある濃密な魔力に当てられないよう、自らの周りに薄い膜を貼るように遮断する。
「アンタらが侵攻を開始した理由、それはアンタの一人娘が人族の村の近くで行方不明になったから、だろ?」
「何を根拠に」
「その娘の今の状況を知っている。どこで何をしているかもな」
魔王の表情が歪んだ。
「そもそも魔王自身復活したという噂があったが、以前勇者に討伐されたと言われている段階で、嘘だったんじゃないのか?」
「何が言いたい」
「本当はただ、娘と幸せに生きていたかったのでは無いのか? という憶測だよ。当時……百年前の勇者とアンタが一芝居うって、魔族は表舞台から一旦姿を消した」
俺はゆっくりと立ち上がり、魔王を見据えた。
「手を貸してやる、と言っている。俺はただ、今ここに無遠慮に立ち入ってる勇者(笑)に復讐したいだけだからな」
「貴様が復讐する場を貸せということか。そもそも我が【泡沫のエンリケ】をも殺しておいて信じろと?」
俺は「ちょっと失礼」と、杖を拾い上げ、自分の横の空間を指した。
「【門よ】!」
バチッと空間にヒビが入る音と共に、エンリケが吐き出された。
身体中に先程の戦闘の跡が残っており、痛々しい。
「神術の癒しの力では魔族は癒せない。治療を頼む。……討ち取ったように見せかけて彼を保護しておいた。これで信じて欲しい」
魔王が無言で手を掲げると、どこに控えていたのか、近衛の魔族が【泡沫のエンリケ】を抱えて出ていった。
「――それで? 我にどんな利を与えるというのだ?」
「百年前の再演だよ。アンタの娘もここの安全が確保でき次第連れてくる。……俺が世界の半分、つまり人族をまとめる事で、安寧も齎されるだろう?」
「欲しいのは権力か」
「いや、本題は復讐さ。権力は副賞程度って事さ……ほら、そろそろ奴らがここに着くんじゃないのか? 答えを出してくれよ」
魔王は「ふむ」と思考を巡らせ、
「一つでも先程の話を違えた時、我の全力を持って貴様を消し炭にしてやろう」
「ご協力感謝致します」
王族に相対した時と同じ所作で礼を述べたその時、謁見の間の扉が弾け飛ぶように開け放たれ、正規ルートで到着した勇者(笑)御一行がなだれ込んできた。
元気そうでなにより。
「魔王! てめぇの首もらうぞ!! ……って大賢者てめぇなんでここに!?」
勇者(笑)が疑問符をなげかける先で俺は不敵に口元を歪めながら振り返った。
「バカは全部説明しないと分からないんだな? そうだろ? アンナロッテ」
俺と魔王の間に【闇のアンナロッテ】がゆらりと姿を現す。
「そうねぇ。みんなあなたみたいに賢ぉくないからぁ」
クスクスと嗤う声にやっと理解したのか、剣士が突撃の為に踏み込んだのが見えた。
同時に癒術師が
殺意むき出しの勇者パーティに向け、俺は凄惨な笑みをむけた。
「サァ、お掃除の時間だ」
あぁ、もう楽しくて仕方ないよ。
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