第2節①魔力適正ゼロの俺が賢者となって魔法で無双するまで。


 剣封じの洞窟。

 それがそのダンジョンの名前だ。


 特殊な魔力に覆われており、金属の装備の重量が約二十倍になる仕掛けが組まれている。


 その為ヘビーアーマーで剣を装備した剣士ザッコスは役に立たず、軽装で格闘する以外なく。

 ケレルは全般的になんでも出来るが、器用貧乏で火力が足りず。

 癒術師ゲスヤーロは杖で殴るしか戦闘方法がないときた。


 やはり魔法使いが居ないとこのダンジョン攻略の目処は立たないのだ。



 という事で、その剣封じの洞窟の入口まで俺たちは来ていた。


「アンタも知ってるだろうが、この洞窟の中じゃ魔法しか使えん」


「俺様の華麗な剣技も見せられねえってことだ」


 黙ってろ雑魚が。


「純粋なスキルと魔術だけで何とかしなければならない、ということですね」


 今朝国王から下賜された【神樹の杖】を掲げ、


「これもありますし、大船に乗った気でいただければ。……っとそうそう、すみませんがダンジョンに潜るついでに一つクエストを消化させていただきます」


「あ? なんだその汚い十字架」


「これは比翼の十字架……二つで一組の十字架です。片方に魔力を流した時、もうひとつが近くにあればお互いが光る、と言うグッズですね。いわゆるカップルが好きそうなやつです」


「んで? それがなんで今出てくるんだよ」


 こんな殺伐とした場所で出した時点で察して欲しいのだが……。


「依頼人の恋人が此処に入ったきり行方不明となったらしく……。手がかりがこれしかなかったのです」


「成程、せめてその遺品だけでも、ということですね?」


 お、この中で察しがいいのはゲスヤーロか。

 さすがさすが。


「そういうことです」


「ならば、遺品の配達と依頼人の心身のアフターケアは私が担当しますよ」


 ニヤニヤと笑うゲスヤーロに、やんわりと笑みを返しておく。このクズが(ニッコリ)



 ――――――――


 ダンジョン内部での行動は単調な物だった。

 モンスターが出る、俺が撃破する、ケレル達が調子に乗る。のループだ。

 何もしてないのに自分の手柄としてキモチよくなれるのはある意味才能なのではないだろうか。


 特に問題もなく、第三階層まで歩みを進めた時、比翼の十字架が淡く光った。


 やはり、この辺だったか。

 信じたくない気持ちと、見つけられて良かったと言う気持ちがぐちゃぐちゃにかき混ざり、胃のあたりを締め付けた。


 徐々に強くなる反応。

 そんな最中に襲いかかるモンスターに杖を向け「シャドウエッジ」と紡ぐ。

 漆黒の刃がモンスターの身体を易々と細切れにしたのを確認するまでもなく通路を進む。


 焦燥が胸を焦がすのを感じながら反応に任せて道を曲がると、そこに白骨死体が壁に寄りかかるように居た。


 もう何年もそのままそこに居続けたのだろう。

 完全に白骨化し、衣服もボロボロになっているため、首から下げていた比翼の十字架もむき出しになっていた。

 遺体から丁重に十字架を外すと、国の作法に則って祈りを捧げた。


「やっと見つかったのかよ、ほら、さっさとお目当てのもの行こうぜ」


「とんだ時間の無駄だぜ、ほんとに」


「身の丈にあった依頼を受けないからこうなるんですよねぇ」


 口々に不満を垂れるケレル達の顔面に拳を突き入れてやりたいのを必死に堪えながら、祈りを終わらせ、俺は腰を上げた。


 大丈夫だ。

 お前らはこのダンジョンの最奥で、同じように物言わぬ身体になるのだからな。


 目指す最奥まであと少し。

 計画を脳内で反芻しながら、着実に一歩ずつ歩みを進めていく。

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