第1節③・魔力適正ゼロの魔法使いの俺が賢者と呼ばれるまで

 延々数時間、死ぬに死ねない地獄を繰り返され、暗殺者アサシンは泣きながら死を願い、そして依頼者も吐いてくれた。

 まぁ、思っていた依頼人とは違う名前が出たから、大元を問い詰めるのは控えておく事にするが……。


 とりあえず一人尾行が外れたらしい。

 残りの二人は俺の実力が見たいだけのようだから、特に手を出してこない限りはこちらも何もしないでおくことにする。

 何よりめんどいし。


「ご主人様、近くに危険は無し」


「了解、ありがとう」


 ルルが木の上からヒョイと飛び降り、慣れた手つきで野営の準備を始めた。


「ルルも随分手馴れたな」


「そう? ご主人様のおかげ」


「俺? 特別野営に関しては何も教えてなかったと思うけど?」


 ルルは手際よく薪を組み上げ、ポソりとつぶやく。

 薪に向かって手をかざし「火よ」と紡ぐと、パチパチと音を立てながら薪に火が入った。


「ご主人様が私を見つけてくれなかったら、今頃廃棄されてた」


 サラッと重いことを呟く。

 この頃それらしい言動が無かったので、すっかり忘れていた。


 ……ルルと出会ったのは銀のギルドプレートを受け取った頃だった。

 依頼人に会いに近くの村へ向かう途中、モンスターに襲われている商人を助けたのだが……、その積荷がいたいけな少年少女だったという、なんとも胸糞悪い話だ。

 商人もついでにギルドに突き出し、少年少女を元の町や村に送る旅の最後に、ルルだけが残った。

 当時のルルは幾重にも呪いをかけられ、顔や姿も変わってしまっていたこともあり、引き取り手も付かなかったのだが。


 ……めんどくさいな、長くなりそうだから別の時にでも詳しく思い出すことにする。


「ご主人様……」


 物思いに耽っていた自分の目の前にケットシーの少女のクリっとした瞳があった。


「ん? どうした?」


 努めて平静を保ってこたえ――


「今日も、シて?」


「言い方っ!!」


 毎夜の健全なマッサージを行い、遠征初日は平穏無事に終わった。




 寝息をたてているルルを眺めつつふと思う。


 俺がやっているマッサージは、マッサージも兼ねた【解呪】だ。


 彼女が幼い頃に浴びた呪いは深く深く浸透し、彼女の魔力器官、更には心臓にまで食いこんでいた。

 これを解除する為には、根本から事象をいじくるしかなくなる。


 そこで使ったのが俺の固有スキルだ。

 元の状態から【置き換え】る事で、元々の性質を守りつつ【別の物】として治療が出来るようになった。


 そして、今日のマッサージの様子を見るに、あと一つか二つ呪いを取り除けば、彼女は完全に呪われる前の状態に戻ることが出来る。

 だが、その後……。


 再度【置き換え】をした時。

 そこに残るのは、ルル、なのだろうか……?


 眠るルルの髪を撫でると、彼女はくすぐったそうに身を捩った。


 俺の復讐に巻き込み、利用してしまった他人。


 ……せめてこの娘には、幸せになってもらわなくては。

 ……いや、幸せにしなくてはならない。


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