第1節②・魔力適正ゼロの魔法使いの俺が賢者と呼ばれるまで

 一歩王都の主要門から外に出ればそこは生きるか死ぬかの世界。

 もちろんそれは対モンスターだけの話ではなく。


「アンタがライアルか?」


「人違いです」


「死んでもらうっ!!」


 お外にはこういう話を聞かない奴らも出てくる。

 街道を抜け森に入って少し経った頃、突如手投げナイフを投げつけられ、俺にあっさりかわされてからのやりとりだ。

 パッと見、身のこなしはかなり良い方。

 黒ずくめで顔も隠しているため、素性は不明だが、暗殺請負人アサシンの、それもハイレベルな奴だろうな。


 繰り出されるナイフ(恐らく何らかの毒が付与されている)をかわし、一旦距離をとる。

 間髪入れず、投擲されるナイフも紙一重で回避を重ねる。


「あー、もしかしてコレ俺の事狙ってるやつ? 確か名前は【神魔教】とか言う?」


 ちょっと前に絡まれた『魔王が本当は神様だ』とか言う思想のカルト集団の名前を出してみたが、もはや語るすべなし?

 返答すらないのは少し寂しい気もしたのだが。

 だってほら、少なくとも「はい/いいえ」はコミュニケーションの基本なわけで。

 それくらいは答えてくれないと、



 ただのゴミな訳で。



「……虚空斬ホロウ・スラッシュ


 杖を向けてただ一言。

 ポツリと呟いた次の瞬間、男の身体は腰の上と下で綺麗に分断された。

 つかつかと歩み寄りながら声を紡ぐ。


「苦しいだろ? 痛いだろ? 怖いだろ?」


 漏れ出ていた臓物を踏みにじりながらすぐ横にしゃがみこみ、


「わざと死なないように斬ったからな? 情報をくれれば楽に逝かせてやるけど、このままジワジワ死んでいくのとどっちがお好みだ?」


「……致命霧デス・フォッグ


 男の身体から紫紺の霧が溢れ出る。

 広範囲を高速で覆う死。吸い込んだら即死。もれなく自分も死ぬが、ターゲットを確実に処理したい暗殺者アサシンの使う奥の手のひとつだ。が、


「やっぱ使うよね」


 ぽしゅん、と言う表現が一番近いような間抜けな音と共に、霧は文字通り霧散した。


「びっくりしてるねぇ。こっちは魔術のプロよ? 発動してる魔力を解析して相殺させるなんて事も出来ちゃうわけよ。という訳で、そんなクソみたいな逃げ方はさせねぇよ?」


 杖をくるりと一回ししてニヤリと笑った。


「さて? お話願おうか? あ、回復魔法ヒールじっくりとかけ続けるからな? お前さんが楽に死ねる道なんて、もうねぇのよ。おわかりかな?」


 自覚はしている。

 俺はいつの間にか、どこかが壊れてしまっていたんだろう。


「さぁ、全部吐き出しちゃおう?な?」


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