第3話 腐れ縁

 あき君の体が渦巻いて消えるのを見届けて、あたしはモニターを睨んだ。怪異対策係の協力で、姿も、場所も丸分かり。それなのに、犯人は永遠と自分の理想と要求を語り続けてる。


 ——馬鹿な奴。


 あたしに勝つつもりなら、そんなに堂々としてたら駄目よ。このおまじないに距離なんて関係ないんだから。


 モニターに糸切り鋏を向けて——パチンッ。

 犯人と犬神を結ぶ、主従のやった。


 あたしの実家、秋葉家は、縁結びの神様を祀る霊媒師の家。秋葉流の総本山。

 善縁も悪縁も自由自在に操る縁結びの神様の力を借りた、秋葉流霊媒師のお呪いは、神様と同じように縁を操る強力なもの。糸は縁結び。針は縁を操作する。そして——糸切り鋏は縁を断つ。


 霊媒師と式神は、主従の縁を結んで初めて成り立つ関係なのに、もしこの縁が切れちゃったら——どうなると思う?


「うわあぁぁ! やめろ! 来るな!!」

 モニターから聞こえる犯人の悲鳴と、犬神の咆哮。倒れるカメラ。


 今まで散々、犬神その子に人間の味を覚えさせたんだから、こうなるのは自業自得よ。


 でも冷笑する反面、胸がチクッと傷んだ。


 犯人への同情じゃない。あたしとあき君の関係について、思うところがあったから——だって、あたし達は犯人と犬神と同じ、主人と式神の関係だもん。


 あき君と主従の縁が切れたとき——犬神に噛まれたあの犯人みたいに、あき君に灰にされるならまだ良いよ。でも、もしあき君があたしを置いてどこかに行っちゃったらって思うと……寂しくて立ち直れない。


 首を振って、弱気な考えを否定する。


 あたしって、本当ダメだなぁ。いつかあき君があたしを忘れて、知らない妖怪と幸せになることを願わなきゃいけないのに……。


 あの日、差し出された指輪を受け取らなかったのは——見えて義理堅いあき君を独りぼっちにさせないため。

 だってあたしはただの人間だから、あき君みたいに長生きできない。結ばれたところで、彼を不幸にするだけだもん。


 あき君が大好きだから、一時の幸せより、悠久の幸せを掴んでほしい。それなのに、あたしはあき君との縁を切れずに、今も式神として縛り付けている。


 わがままでごめんね。

 

 捻くれたうえに、ガサツでズボラで、かわいげのない女でごめんね。きっと、あき君はとっくの昔に、あたしに愛想を尽かしてるよね。


 ……でも、何千年も生きたあき君にとって、人間の寿命なんて、コーヒーブレイクにもならないような短い時間でしょ?

 だからどうか、あたしが死ぬまでは傍にいてよ。その後は『最悪な女からやっと解放された』って笑っていいから。


 ふと、モニターの端にあき君が映ったのに気付いた。よかった、無事に着けたみたい。仕事中の凛々しい顔がカッコいい……。


 あーあ……。もしあたしが、彼と同じ妖怪だったらよかったのになぁ。そしたら、彼を傷付けずに済んだのに……。

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