第20話 今日はいい一日だった。明日からも楽しい日であると嬉しい。
何かの砲撃かもしれない。
「シェリー大丈夫?」
大きな音と共にキレイな光が空へと浮かび上がった。
月明かりに照らされていた可愛い彼女の顔が赤い光で照らされる。
「お嬢様の上からどけ。お嬢様が花火を見ることができないだろ?」
「ごっごめん」
「私はもう少しこのままでもいいわよ?」
海上から鳴り響いた音は何かに攻撃をされたわけではなく、夏の風物詩の花火だった。
空に広がる夏の花は圧倒的な大きさで、僕たちの度肝を抜いた。
今までこんな近くで見たことはなかった。
「今日は花火の予定なんかあったの?」
「あったわよ。この日のために3カ月も前から準備したの」
「サプライズ上手か!! 僕に予定があったらどうしていたのさ?」
「大丈夫。99%私との予定以外はないことを把握してたわ」
「まるで僕が友達いないみたいじゃないか」
「えっ……うん。なんかごめん」
「いや、素直に謝られると僕も困惑するわ!」
ハハハッと腹を抱えて笑う彼女は本当に楽しそうだった。
彼女の顔が赤や黄色……さまざまな色で彩られていく。
僕とシェリーは砂の上で横並びに座る。彼女の手が僕の手に少しだけ触れる。
サファリが横目でそれを見ていたが、フンと鼻を鳴らしそのまま視線をそらし花火を見ていた。
どうやら今回は見逃された?らしい。
「ダレルの腕の傷残っちゃったね」
「傷? あぁこれはシェリーを守った名誉の負傷ってやつだね」
シェリーがすっと僕の古傷を撫でるように触る。
「私があの時ふざけてなければダレルに痛い思いさせなくてすんだのにね」
「いいんだよ。この傷があって今があるんだから」
僕たちの手はそのまま花火が終わるまで触れ合っていた。
いつもよりも鼓動が大きく早い。
こんなにドキドキしたのは初めてだった。
あまりに鼓動が大きく、この鼓動の音がシェリーには聞こえないで欲しいと思いながらずっと空を眺めていた。
僕たちの時間が止まったかのように花火が終わるまで誰も言葉をかわすことはなかった。
花火が終わり、馬車に乗って家路につくことになった。
辺りはすでに暗くなっていたが、サファリは相変わらず空から警備をして、シェリーはニコニしながら暗くなった街を眺めていた。
不謹慎だが彼女が死にそうになった過去も、今元気でニコニコしていることも僕は嬉しかっ
た。
あの日彼女と出会わなければ、僕は今ここにいることはなかった。
彼女の病気が僕を引き合わせてくれた。
もちろん、病気なんてない方がいいにきまっているんだけど。
こんなことを考えてしまう僕は、きっとひどい人間だ。
「何を考えているの?」
「僕のこと?」
「決まってるじゃない。他に誰がいるのよ」
「僕は……君のことを考えていたよ」
「私のこと? いやー恥ずかしいな。二人きりの時だけはそうやってデレてくれるんだからもう」
彼女はソランをいないものとして考えているが、ソランは普通に同じ馬車内に乗っている。ソランは普段は無口で、僕たちのことについてはどちらかというと味方側なので、とくに何も言ってこない。
僕はそのまま外の風景を眺める。月明かりに照らされた町並みはまた違った風景のように見える。
そのまま僕は一人暮らしの家まで送ってもらった。
「じゃあまたね!」
「あぁまたね」
同じ家に帰ってきているはずなのに、行きとは違って足が重い。
誰もいない家の玄関の扉を開け、小さな声で「ただいま」と言い、そのまま自分の部屋へと向かう。部屋に入って部屋着に着替えると、双子の魔導書が緑に光り出した。
これはもう片方の魔導書にメッセージが書かれた時にこうやって光ることで教えてくれる。先ほど別れたばかりだというのに……。
魔導書を開いて見ると、こんなことが書かれていた。
『今日はお疲れ様! めちゃくちゃ楽しかったー! まさか海に行って海王イカに襲われるなんて思わなったね! いやーあのスリルはぜひまた味わいたいね! お姫様抱っこしてドキドキしたかな? ねぇした? またどこか遊びにいこうねー。ゆっくり休むんだよー』
文章で読んでいるのに、彼女が笑っている姿が頭の中をよぎった。
今もきっと彼女は笑顔でいるはずだ。僕はなんて返信するべきか考える。
あのスリルか……彼女の普段の生活では海王イカに追いかけられるなんてことはありえない。彼女の命を危険にさらすつもりはないが、また少しドキドキするくらいならあってもいい。
そのまま今の気持ちを彼女に送ろうとしたが、やっぱりやめた。
彼女にそれを言ったら、危険なことでも実現してきそうだからだ。
彼女を守るつもりではいるが、わざわざ危険なことに巻き込まれに行く必要はない。
「また遊ぼうね。いい夢を」
そう魔導書へ書き込んで僕はベットへと入った。今日一日を頭の中で思い出す。
今日はいい一日だった。明日からも楽しい日であると嬉しい。
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