第19話  僕はとっさにシェリーをかばうように抱き着いた。

「もう、本気にしないでよ。ダレルはからかいがいがあるな」

「もう慣れたよ。慣れてないサファリに言ってやってくれ」


「ダレルだけが私を私として扱ってくれる。公爵家のお姫様じゃなくて、一人の人として」

「今ここでうんといったら、僕が死ぬことわかって聞いてるかな?」


 海底で二人だけの時とであれば、彼女の言葉に素直に頷くことができるが、今は彼女の誘いに気軽に答えることはできない。

 どこで誰が聞いているかわからないからだ。


「あれ? おかしいなぁ。海底ではあんなにイチャイチャしてくれていたのに?」

「お嬢様、どういうことでしょうか? しばらく目を瞑っていていただければ、忠臣サファリお嬢様の障害を排除させて頂きます」


 サファリの目が怖い、目が怖い、目が怖い。

 こういう時だけこいつは張り切るんだから。


「それで、この後の予定は?」

 サファリの視線を避けて見ないようにする。


「逃げるのか? ここできちんと白黒つけておけば今後楽になると思うぞ」

 どういう意味で楽になるというのかなんてことは怖くて聞けないが、決していい意味ではないことはたしかだ。


「ハハハッ! 本当にダレルは可愛いな。このあとはね……秘密。もう少しここでゆっくりしよう。空でも眺めて何もしない時間を味わおうじゃない」


 辺りは段々と暗くなり、透き通った海に太陽が沈んでいく光景はとてもきれいだった。

 横を見ると夕焼けの赤さにシェリーの顔も赤く染まっている。

 思わずあまりの可愛さに目を背けてしまった。


「おっどうした? どうした? 何かあったのかな? あっ私が可愛くて目を背けたのかな?」

「違うよ。そんな理由じゃないよ」


「可愛いって言ってよ」

 サファリがガチャリと剣を動かす。

「カワイイヨ」


「なんて心のこもっていない可愛いなんだ。お嬢様聞きました? ちょうど今海王イカの解体された残りの残骸もありますから一緒に処分すればバレません。私が彼はお嬢様を守るために勇敢に戦ったと伝えておきます。ご決断を」


「いいんだよ。ダレルは私のことが大好きなんだからね!」

 フフフと笑う彼女に僕は何も返さずに、暗くなっていく水平線を眺めていた。


「そろそろかな」


 辺りが暗くなり、空に星が瞬く頃、シェリーがそう呟くと、海上から地面を揺らすような大きな音がした。

 僕はとっさにシェリーをかばうように抱き着いた。

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