第18話 かき氷ってわかっていてても頭痛くなるよね

 海王イカがレッドドラゴンを海中に引き込もうとするが、レッドドラゴンは海上へと引き上げようと力強く羽ばたく。


 海王イカは負けじと足でレッドドラゴンの翼へと絡みつこうと伸びていくが、それをサファリが切り落とす。

 目の前で激しい戦いが繰り広げられている。


 このままレッドドラゴンが負けるのを近くで見ているわけにもいかない。

 できるだけ目立たないように、魔力を練りタイミングを見計らう。

 海王イカの魔力切れを狙ってもいいが、海岸には大量のゲソが打ち上がっている。適量なら食料としてもいいけど、このままでは処理するのも大変になってしまう。


 サファリが海王イカへと切りかかる瞬間、僕は氷炸裂弾を放った。

 この魔法は貫通力の高い小さな氷塊を打ち込み、内部で破裂する暗殺用の技だ。


 小さな時に一度くらってから対策のために自分で覚えた。

 今ではマスタークラス並みに使うことができると自負しているが、できるだけ目立ちたくない。


 こんなのが使える子供がいるなんてわかった日には人と交流をしなきゃいけないらね。

 人見知りの僕にとってそれは拷問以外のなにものでもなかった。


 サファリの剣があたる瞬間、僕の魔法が先に直撃し内部から氷の刃が身体の中心部から回復できないほどの勢いでいっきに引きさいた。

 海王イカは身体の中心部から破壊しないことには何度も復活してくる。


 いくら海王イカの足や触腕を切り落としても意味がないのだ。

 いや、意味がないわけではないな。


 浜辺にはサファリが切り落とした大量のイカの足が転がされていた。

 これはこれで食料になる。

 浜辺で見ていた人たちから大きな歓声があがった。


「さすが、サファリだな。シェリーこのイカどうするんだ?」

「えっ……どうしたらいいと思う?」

「食べきれないなら……」


 僕が浜辺の方を見ると、目を輝かせている住民が沢山いた。


「住民に与えるのもいいんじゃないか」

「そうね。みなさん海の恐怖は去りました。私たちだけではこの海王イカを処分できませんので、みなさんにもBBQの食材として使って頂ければと思います」


 シェリーがそう大声でかけると、先ほどまでの恐怖が浮かんでいた表情から一気に明るい表情へと変わった。魔物に襲われる恐怖はあるが、食べられる魔物は住民にとってはご馳走になる。


「やったー! イカ焼きだ!」

「イカ飯炊こうぜ」


「おい、これだけあるなら街の人間にも声かけようぜ」

 遠巻きに見ていた人たちが、それぞれ剣などでどんどんイカを切りわけていく。


 僕はこっそりと海王イカの魔石を回収しておく。海王イカの魔石は特殊な能力があり、かなり使い道がある。


 いいものをゲットできた。

 海王イカはどんどん解体され領民たちがそれぞれ持ち帰っていく。

 しばらくするとサファリが僕たちの元へ戻ってきた。


「お嬢様、無事で何よりでした。次はお嬢様に触れた罪でこいつの処分をしようかと思いますがいかがでしょうか?」

「なんで僕なんだよ!」


「お嬢様に手を触れるだなんて、その手を切り落とすくらいじゃ足りないと思います」

「うーん。でも、もし引っ張ってくれなかったら私海王イカに食べられていたかもしれないしなー。サファリはそれでいいって言うの?」


「いえ、お嬢様が無事でなによりでした。良かったな。今回は手首が繋がっていて」

「お前の手のひら返しの方が、手がねじ切れそうだよ」


 ハハハッと楽しそうに笑っている彼女は僕たちのことを交互に見返しているが、僕は全然楽しくない。サファリだけはきっと仲良くなれない気がする。



「お嬢様、美味しいイカ焼きができましたので、どうぞこちらへ」

「おっ早速いいね。やっぱり鮮度って大事だよね」


 ソランが作ったのは、イカのバター焼き、イカの刺身、イカのフライ、イカの煮物などなどこの短時間で作ったとは思えない料理だった。


 揚げ物までって、いったいどこからそんな料理道具を調達してきたのだろう。

 磯の香りにバターの香りが混ざって、普段味わうことのできない特別な雰囲気を醸し出してくれる。


「さぁせっかくだからご飯を頂きましょう」


 大きなイカが切り分けられる中で、僕たちは美味しいイカ料理に舌鼓みをうつ。

 持ち寄った食材でのBBQも最高だが、現地調達の食材もまた格別だ。


 僕たちは最高のイカ料理を満足するまで頂いた。

 食事後、BBQの片付けなどをしてからゆっくりしていると、ソランがデザートのかき氷を持ってきてくれた。


「こちらどうぞ。浜辺のかき氷屋さんがイカのお礼だそうです」

「ありがとう」

「どうも」


 勢いよく食べ始めたサファリが「頭痛い」と言っているのを笑っていたシェリーがやっぱり勢いよく食べて「殺人的な痛さだわ」とつぶやいていた。


 学習能力のないやつらばかりだと、横目に僕はゆっくり食べていたが同じく頭痛に襲われた。頭痛になる魔法でもかけられているのかと疑いたくなる。


 痛いなんて言ってやらずに平気なフリをしていたが、顔にでていたのかクスクス笑われてしまった。

 絶対に表情にださない自信があったんだけど。


「それで、美味しいBBQを楽しんだあとはどうするつもりなの?」

「そうね。この後は成人したらダレルから告白を受けて、結婚式は南の島の景色がきれいな教会であげるわ」


 サファリがカチャリと剣を鳴らすが、そんな未来の話に飛ぶとは誰も予想できるわけがない。というかそもそも、僕のせいではない。


「今後の未来の話はまた別の機会にでもするとして、今日の予定を聞きたいんだけど」

 彼女はきょとんとしたような表情を見せるが、絶対にわざとやっている。

 僕の反応を見ながらクスクス笑い、ハハハッと段々と大きな笑いに変わっていった。

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