第15話 このプニプニと弾力があることで

 彼女は元々虚弱体質だが、その身体には妖精や精霊たちから授かった特別な力がある。

 呼吸のことを考えなければ、肉弾戦なら僕より数段強い。


 気が付いた時には、ふわっと身体が宙に投げ出され、僕は海の中に頭から突っ込んだ。

 溺れる! パニックの中で思いっきり口から海水が……入ってこなかった。


 あれ? 水の中でも呼吸ができるぞ!?

 しかも落ち着いて起き上がると、まだ地面に足がつく場所だった。


「水の中で苦しくないってどういうこと?」

「知ってて買ったんじゃないの? この水着は水中では呼吸ができるタイプの魔術が組み込まれた水着だよ。水の中でも手を繋いでいれば会話もできるし、水底でも身体が浮かないようにしてくれるのよ」


「そうか、僕が引きこもっている間に新しい魔法がどんどん開発されているのか」

「そうだよ。あんなのもあるんだよ。エアーを使える魔法使いが空気をいれてくれるの。浮き輪って呼ばれる魔道具なんだ」


 シェリーがサファリの方を見ると、いつの間に作ってもらったのか、サファリが剣を持ちながらドーナッツを大きくしたものをお腹の周りにつけてこっちに走ってきた。


 サファリは堅物だと思っていたが、あのとろけるような笑顔を見ていると、年相応な女の子に見える。


「だいぶはしゃいでるみたいだね」

「サファリは私の護衛としてずっと育ってきたから、任務に真面目なだけで本当は可愛い女の子なんだよ」


「僕にはいつも厳しいけどね」

「恥ずかしがりやだからね。サファリ! 浮き輪をダレルに見せてあげて」


「えっ、わかりました。変な目で見たら目を潰すからな」

「サファリが恥ずかしいから浮き輪以外はあまり見ないでって」

「シェリー様っ!」


 笑いあう二人の姿が少しだけ眩しかった。

 場所と時間と世界線が違えば、こんな世界もあったのかもしれない。


 せっかくなので詳しく見せてもらう。

 素材は……アンゴラ蟻の口からでる強力な防水糸を使っていて、わっか状に縫い込まれているようだった。空気が簡単に抜けないように工夫されている。たしか、この糸だけでも浮力があるから、水の上で人を浮かせることができるようだ。


 その上、空気をいれることで水の上でも沈まずに安全に遊ぶことができる仕様になっていた。

 これなら泳げない人間も海を楽しむことができる。


 女性用なのか、可愛い花まで刺繍がされていて芸が細かい。

 しかも、あれなら何回でも使えそうだ。


 最近の道具はどんどん発展していく。僕もたまには外に必要がありそうだ。

 触ってみると結構弾力もあって手触りもいい。

 魔法の付与とは違う性能の良さもありそうだ。


「このプニプニと弾力があることで、身体にショックを与えないようにしているのか」

「お前、いい度胸しているわね。私の引き締まったお腹をみてぷにぷにしているなんて!」


「いや、この浮き輪を見て言っただけでお腹には一ミリも興味がなかった」

「それはそれで失礼よ! お嬢様、海上では不審死が起こってもバレにくいと聞きます。どうかこの忠臣サファリにヤレとご命令ください」


「逃げるわよ。ダレル!」

 ハハハッと大声で笑いながら彼女は僕の手を引くと海の深い方へ駆け出した。なるほど。海が深くなるにつれて浮力に負けることもなく、しっかりと足で海底の砂を掴んでいる。


 思い切って、もう一度海の中に顔を沈めるが呼吸もしっかりできるようだ。

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