第14話 待って! 僕、泳げないよ?
ソランはテキパキと準備にはいる。火起こしから、炭火の加減までプロの手際はすごい。
サファリが貝や魚などを持って海から戻って来たころにはBBQコンロの上にはトウモロコシなど少し時間のかかるものが焼かれ始めていた。
「ちょ……なんでお肉が……お前かダレル! 絶対に許さんからな」
「被害妄想だよ。僕は何もしてない」
シェリーがお肉を一枚乗せると、気持ちのいい音と炭火で焼かれてお肉のいい匂いが、僕たちの食欲をそそる。
「クッ……美味しそうな肉に免じてこの場はおさめてやるが絶対に許さないからな。こんな辱めを!」
ソランがお肉はもちろん、トウモロコシやウィンナー、焼きそば、サファリが採ってきた貝のバター焼きなど手際よく料理をしていった。
さすが、シェリーおかかえのメイドだ。
料理をさせてもそつがない。
「うむむーめちゃくちゃ美味しいじゃない!」
「これは、家の外で食べるだけで100倍は美味しさが変わるわね」
「たしかにこれは、全然違いますね」
「ソランも沢山食べるんだよ!」
「いただきます」
シェリーは普段からもっと美味しい手の込んだ料理を食べているはずなのに、海岸でのBBQなども楽しめる感性がある。
僕がもし貴族だったら……シェリーのように気軽にこんなことができていたかと言われると、そんな自信はない。彼女はやっぱり特別なのだ。
「こんなに美味しいご飯をダレルと一緒に食べられるなんて、私はなんて幸せなんだ」
「改めてそんなこと言うと、まるで死んじゃうみたいじゃん」
「違うよ。死んじゃわなくても、幸せなら幸せだって声にだした方がいいんだよ。私なんて今のこの時間はダレルがくれたおまけの時間なんだから」
僕は一瞬言葉につまる。
彼女の病気はまだ完全に治ってはいない。
何人もの医者や魔術師が見てもダメだった彼女の病気は、僕の魔法で一時的に症状を緩和しているだけだった。
幸いにも病気の進行は進んでいないが、治療もできてもいなかった。
彼女の家族はこのことを知らない。
言えばまた悲しませてしまうからと。これは僕と彼女の二人だけの秘密だった。
「ダレル、次は何したい?」
「なんでもいいよ?」
もともと海にくるつもりなんてなかった僕は、どうやって遊ぶと言われても困ってしまう。そもそもみんな海に来てどうやって遊んでいるんだ?
彼女は少し悩むと、花のように明るい笑顔を見せて誘ってきた。
「じゃあ海に潜ろう! さっ上着はここに置いてきましょ」
「待って! 僕、泳げないよ?」
僕の気持ちを置いてきぼりにして、ソランが上着を脱がし、シェリーは僕をひょいっとかついで走り出すと思いっきり海へと投げ込んだ。
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