第13話 意外と抜け目がなかった。
水着を買った僕たちはそのまま馬車を走らせて海へとやってきた。
どこまでも続く白い砂浜に青い海。
暑い日差しがじりじりと皮膚を焼く。
馬車は砂浜の入口に置いておき、その中で交代で着替えて海へと向かう。
ここは特に公爵家専用の海というわけではないので、一般の人たちも沢山きていた。
みんな楽しそうに思い思いに楽しんでいる。
「さすがに暑いな……」
「そうね……」
言葉ではそう言いながらシェリーは汗一つかいていない。
彼女は風の精霊シルクに守られているから、温度がほぼ一定に保たれているのだ。
多少の太陽の暑さはあるだろうが、ほぼ関係ない。
「ずるいな」
「ダレルも風の精霊と契約すればいいのよ」
「無理だよ」
「そんなことないわよ。今度教えてあげる」
簡単に言ってくれるが、そんなことできる人間はごく一部だ。
そしてもう一人……平然としていたのはソランだった。
柄だけで選んだがワンピースタイプの水着を着ているが暑くならないように、暑さ遮断の魔法が組み込まれていたらしい。
あのクラスのお店なら、色々な付与魔法がついているのも当たり前になってきているらしい。女の子のオシャレの為に魔法が付与されるのはいいが、貧乏性の僕には値段がいくらなのか聞くことができなかった。
サファリは……もう顔が赤くなり茹でタコのようになっていて、少し可哀想なくらいになっていた。あまり性能としてはいいものではなかったらしい。
次から僕に優しくしてくれれば、僕も優しくしてやることを考えてもいい。
ソランはどこから準備したのか、かなり大きなパラソルを地面に挿すと、シェリーが座る椅子とトロピカルなジュースを準備した。
「結局、海にきて何がしたかったんだ?」
「海と言えば……BBQかしら?」
「食料は?」
「今からとりにいくのよ。この大自然という豊かな恵みに感謝して……」
「道具は?」
「……」
「つまり無計画ってことだね」
「そうともいうわね」
ニシシと彼女が笑るのを見ると、たまにはこんなのもいいかなと思ってしまう。
「仕方がないな。僕のボッチコレクションからBBQセットを貸してあげよう」
僕は普段来ているコートからBBQセットをとりだす。
このコート見かけは茶色い薄手のコートだが、実は異次元バックのかわりとなっていて、内ポケットが僕の家と繋がっているのだ。
体の成長にあわせて大きくなる特別製なんだけど、半袖と長袖タイプしかなくて、真夏の海には少し暑い。どうせなら体温調整機能も付けて欲しかった。
自分で作ろうと思えば作れなくはないと思うけど、優先順位が上がらずいつも後回しにしている。そこは僕の悪い癖だ。
これを使えば、家の中にある物ならなんでも取り出すことができ、生きている物は送れないが、かなり重宝する魔道具だ。
「ダレル、これどうしたの?」
「決まってるじゃないか。僕みたいな友達がいないボッチはいつBBQに誘われてもいいようにBBQセットを常に常備してあるんだよ」
「冗談にしても、なんか悲しいわね」
「使いたくなければしまうよ?」
「使う! 使う! でもお魚は……?」
僕と、シェリーがほぼ同時にサファリの方を見ると、サファリは首を高速で左右に振る。
「わっ私にはお嬢様を守るっていう重大な責務がありまして……こんな格好で……」
「サファリ、行ってらっしゃい」
「クッ……この屈辱忘れないからな! ダレル、貴様は楽に死ねると思うなよ!」
なぜか僕だけ根に持たれているんだが……。
サファリはそうは言いながら剣を持つと海の方へ走っていってしまった。
ソランは何事もなかったかのように、馬車まで戻ると魔物の肉などを持ってきた。
「あら? ソランお肉準備しておいてくれてたの?」
「はい。ただ現地調達の魚介も美味しそうなので、採れるなら採ってきてもらおうかと……」
意外と抜け目がなかった。
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