私的作品調査報告書
霧間 響
漫画「ちいかわ なんかちいさくてかわいいやつ」調査報告
ちいかわを読んだ感想~「ちい」さな希望と大きなリアル。ファンタジーの「かわ」を被った噂のやつ~
まず率直な感想を
よくわからない小さないきもの「ちいかわ」とその仲間たち。ほのぼの日常回があったり、続き物でドラマ的展開やホラー、タイムリープ物があったりと読み物として意外と重厚な作品にもなったりする。
また「ちいかわ」他、キャラクター全員には明確な意思があり、小動物を愛でるという視点で作品を楽しみながらも、試験に向けて頑張る姿や仕事での苦悩、常世を生きているものなら感じる「理不尽」であったり「ささやかな幸せ」だったりを享受するところに共感を覚えるみたいな、「日常系あるある」を楽しめたりもする。また、小動物かわいい漫画が基本でにあるので上記のような「ホラー」や「SF」要素がちらつくと強いコントラストになって話そのものが引き立つ良い要素になっていた。
5巻までの読んだ感想だが、途中2~3巻あたり日常が多めで少し中だるみ感はあったものの、総じて作品のコンセプトである「マスコットキャラクターほっこり」「日常あるある」「不穏回」と甘みしょっぱみが楽しめる良い作品だったと思う。
せっかくなので様々な視点から考察もしていきたい。
キャラクター解説
ちいかわ
作品のタイトルにもなっている、主人公。草むしり検定という恐らくこの世でいう「キャリアアップ資格」を勉強し、不器用ながら純真な性格で日々頑張って日常を過ごしている。純真がゆえに日常で起きる理不尽なことにまっすぐ受け止めてしまい深く傷がついてしまいがち、まさに一時期流行った「繊細さん」と言ったところか。しかしポジティブな面に関しても肝要に受け止めて笑顔でいられる姿はもしかしたらその姿に元気をもらっている読者もいるのかもしれない。
ハチワレ
穴倉に住むちいかわの友達。慎ましく生活しながらもたまにはいいものが欲しくなる(カメラ)ことや他人に対して極端なまでにこまやかな気遣いを見せる。また、ある程度のことはそつなくこなせる、ある種達観したような性格はまさに「現代の若者」像を彷彿とさせる。この作品は大人的なキャラ以外はあまり人語を離さないがハチワレは人語を話せる。もしかしたら知能かそれに準ずるもののレベルがある程度高いと人語を話せるのかもしれない(後述モモンガ、くりまんじゅう参照)
うさぎ
野外を住処とする突飛なキャラ、活動的で天才肌でもある。(草むしり検定 ちいかわ 不合格、ハチワレ 合格、うさぎ、3級)。また困難に対する対処力も高く、ピンチをチャンスに変える、利益の最大化をする、癖の強いモモンガと普通に接することが出来る対応力を持っている。まさに現代の「あこがれるリーダー的存在」である。しかし、人語を話せない。先ほどの能力は知性というよりも「人間性の高さ」ではないだろうか。うさぎ自身は意図していないが「こうすればええやん」みたいな天才的な行動が世に評価されている。だからハチワレみたいに失敗をフォローするという描写も描かれておらずそこに人語を使用するほどの知性はなかったのかもしれない。
くりまんじゅう
常に何かを肴に酒を飲んでいるオヤジキャラ。基本的にはちいかわ達が何かを食べていたらその隣でその食べ物に一品加えて酒飲んで唸る。お酒のたしなみ方を知っているおじさんムーブを淡々とこなす。日常回の引き立てとして大いに役に立っている。そしてこのキャラは人語を喋れない。作中にある「お酒飲める検定」というものにくりまんじゅうは合格していて大人というメタファーの一つなのかもしれないが喋れないあたりやはり知能が関係してきそうである。
モモンガ
野外に住んでいるふさふさで見た目かわいいキャラ。性格は「ザ・承認欲求」で構って欲しい、矢印をこっちに向けてほしいが全力全開なキャラ。多少迷惑が被ろうとも自分が構ってくれることに厭わないのはこれらも現代に生きる人間の一人なのかもしれない。そして人語を話せる。しかしハチワレのような器用にこなすというよりも我が強いタイプ。もしかしたら人語を話す基準というのは「空気を読む」力だったり「承認してもらいたい」そういう「現代人力」みたいなことなのかもしれない。
鎧さんシリーズ
ここではひとくくりで説明するが要するにこの世界の「大人」達。ちいかわ達の上司やお店の店主そういった人達はひとくくりに鎧さんとして登場する。ある程度成熟した考えを持ち達観している。仕事現場での苦労やほっこりエピソード等を展開したりたまにちいかわ達を助けたりと良い大人たちである。人語ももちろん話せる。
まず根幹にあるのは「かわいいマスコットの日常」と「人間の生活、あるあるネタ」の融合であろう。しかしここで様々なエッセンスが出てくる。
世界観
野山に生息する食べ物たち
地面に埋まっている炊飯ジャーから無限に米が炊けたり川から味噌汁が流れたりもする。ちいかわ達の味覚は完全に人間のそれで基本的にはおいしいものを食べると幸せというのがこの作品の強い認識である。
また、キャラによって食べ方や食べ物に違いがあり個性も出ている。口の周りに食べかすをつけるちいかわ、ちょっと込み入ったものを作ったりするハチワレ、野外にあるものを平気でかぶりつくうさぎみたいな感じで食品がかなり世界観を彩る一因になっている。
敵側にも意思がある?
強烈に心に残ったのはキャラクターほぼ「全員」に明確な意思がある。これは本当に全員で、仲間たち以外にも討伐する「敵」ですら意思があった。擬態する敵やじゃんけんを仕掛けてくる敵まで現れた。ハチワレの家を襲ってちいかわを襲撃した敵や空飛ぶまんぼうも普通に意思あるものかもしれないという余地がある。それくらいにはキャラクターに個性があり、ちいかわ達が悪者を討伐するという視点だが「悪者」側にも意思があり互いが共存している世界なのかもしれない。(悪側にも悪側の正義がーってやつ)。
現実世界とのつながり
フィクションだと言うことはもちろんわかるがファンタジー世界においても現実とリンクさせる要素はもちろんある。例えば、お金の概念だったりとかはどんな作品にも表れるが、この作品はかなりの階層立てて現実とのつながりがある。浅い階層だと「料理」や「衣類」みたいなところから「ハンバーガー」や「カメラ」みたいにぎりぎりファンタジーでも通用するようなことから、「星雲のCM」や「合唱曲 Belive」みたいに完全に現代日本モチーフまである。こういったものがマスコットキャラクターでありながらも共感しやすいという特徴があるのだろう。
アニメ「ちいかわ」と漫画「ちいかわ」
アニメだけみて漫画を見始める前の評価としては、
・よくわからないけど世間でプッシュされている。
・何やら不穏な背景があるらしい。
・アニメを2話ほど見たけどよくわからない世界で平和に暮らす小動物(?)って感じで面白くなかった。
ほぼほぼこんな感じだった。
しかしこれら感じたことは漫画を読むことでかなり合点がいった。それと同時にアニメ作品に対する世間の反応と自分自身の思う作品観の乖離も推測していきたい。
正直な感想を言うとアニメは面白くなかった。よくわからないキャラクターが謎に大きな食べ物の前でキャッキャするだけの作品で動画1本終わる。児童向けアニメにしてもストーリー性が少なすぎるし考察しようにもなにも不思議なことはない。コメント欄を見ても「~がかわいい」とかくらいしか上位になかったので本気で何が面白いかわからず以降触れることはなかった。
個人的な推測をするとこれは新規を取り込むというよりは既読者向けだろうということが漫画を読んで改めて思った。
漫画だと30ページほど読み進めると初めて不穏回「キメラ」に到着することに対してアニメだとまあまあな話数がかかる。この作品の本質の一つである「違和感」に到達するまでの時間がかかりすぎていて作品を誤認していたと思う。
最後に
アニメから入ったのと世間の評判が持ち上げられすぎたせいで完全に敬遠してしまっていた。長らく評価の高いコンテンツでよく面白い噂を聞いていたので面白いんだろうなとは思っていたけど踏み出せなかったがいざ読んでみるとストーリー運びや表現、意外性やリアルとのシンクロ等きちんと評価されるに値する理由があった。さらに深堀したりアニメ視聴や最新話を読めばもっと面白いものがあると思うけど今回は漫画5話までの感想とする。
私的作品調査報告書 霧間 響 @kirimahibiki
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