第40話 映画鑑賞デート

 金曜日の夜、わたしは明日なにを着て行こうか悩んでいた。

 デートにふさわしいおしゃれな私服を持っていないからだ。

 お小遣いは千歳とユナさんとのつきあいや本の購入でほとんど使い切り、洋服代には少ししか回していない。

 親には美容整形手術と発電ユニット手術で大金を出してもらっているので、臨時のお小遣いをくださいとは言いにくい。

 長期間発電をつづけていっぱい稼いだら、わたしの懐も豊かになるのだろうけど、いまはまだ金欠だ。

 まあいい。わたしには川尻唯ちゃんに迫るほどの美貌と彼女を超える大きな胸がある。

 特におしゃれをしなくても、知多くんから嫌われることはないだろう。


 土曜日の朝、わたしは白いTシャツとデニムミニスカートを着て家を出た。

 待ち合わせ時間は午前9時で、場所は河城駅西口改札。

 西口商店街にはシネマコンプレックスがある。映画を見て、昼ごはんを一緒に食べるというのが、知多くんが提示した今日のデートプランだ。

 わたしは10分前に待ち合わせ場所に到着した。

 知多くんはすでに待ってくれていた。白いTシャツと黒いパンツを着ている。

 白のTシャツが期せずしてペアルックになっている。わたしはドキッとして、ドドドドッと発電した。


「おはよう。待った?」

「いや、いま来たところだよ。おはよう」

「白のTシャツ、お揃いだね」

「うん。俺たち気が合うね」

「そうかもね」

「似合ってるよ。スカートも可愛い」

「ありがとう。知多くんもかっこいいよ」

「そう? サンキュー」


 知多くんは女慣れしている感じで、さらっとわたしの服装を褒めた。ただの普段着なのだが、褒められて悪い気はしない。

 わたしたちはシネコンに向かって歩いていった。

 川尻唯ちゃん主演の恋愛映画を見ることになっている。

「相生さんは、少し川尻唯に似てるね」

「大好きなアイドルなんだ。どんな顔に整形しようかって考えて、参考にした」

「そっか。その美容整形、大成功だね」

「整形したこと、軽蔑しない?」

「まさか。前にも言ったけど、勇気あるなって思う。その顔と勇気、好きだよ」

 うわっ、さらりと好きだよって言われた。

 これって、単に容姿と勇気を褒められただけで、告白じゃないよね。

 でもドキドキする。めっちゃ発電できる。

 わたしの発電機は鳴りっぱなし。

 ドドドドドドドドドドドドドドドド、ドドドッ、ドドドドドドドドドドドッ、ドドドドドドドドドドドドドドド。


 知多くんはコーラとポップコーンを買ってくれた。

 やさしいのか、女の子を攻略する手立てなのか判断がつかないが、ポイントは高い。

「ありがとう」

「どういたしまして。映画、楽しもうね」

「うん」

 女の扱いがうまいなあ。たぶん手立てなんだろう。だとしても、かっこいい男の子からきちんとエスコートしてもらえると、ときめいてしまう。

 知多くんはわたしが綺麗になったから興味を持って、落とそうとしている。わたしは知多くんへの恋愛感情を使って、発電しようとしている。おあいこだ。


 映画は川尻唯ちゃん演じる難病の女子高生とクラスメイトの男の子との悲恋ものだった。

 ふたりはやがて死別することを知っているが、懸命にいまを生き、デートを重ねる。

 ヒロインはしだいに弱っていく。

 陳腐なストーリーだが、唯ちゃんがめちゃくちゃ可愛くて、わたしは泣きそうになった。

 死を目前にした最後のデートで、ふたりは夜景が綺麗な思い出の丘に行く。

 ヒロインの意識は混濁していて、美しい記憶が次々に現れる。

 わたしはぽろりと涙を流した。


 そのとき、わたしは知多くんから手を握られた。

 一瞬で画面から手に意識が移行する。

 わたしはぎゅっと手を握り返した。

 

 映画のエンドロールが流れる。

 映画館が明るくなるまで、知多くんはわたしの手を握りつづけていた。

 最後の方では、わたしは映画どころではなくなっていた。

 発電パラダイス。脳が痺れ、多幸感に包まれていた。

 ドルンドルドルドルドルンドルンドルンドウッドドドドドルンドルン。

 発電機が暴れつづけて、ユニットが壊れるんじゃないかと思ったほどだ。心臓の鼓動もすごくて、くらくらしてどうにかなってしまいそうだった。

 百人級蓄電機フルチャージ確定。

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