第33話 恋愛発電マシン

 1学期の終業式の日。

 わたしがこの顔で登校するのは今日で最後だ。

 教師にもクラスメイトにも、誰にも夏休みに美容整形手術と発電ユニット交換手術をすることは言っていない。

 2学期の最初の日には、きっとびっくりされるんだろうな。

 それが楽しみでもあり、怖ろしくもある。

 わたしの新しく美しい顔は、そのとき賛美されるのだろうか。それとも非難されるのだろうか。


 千歳とユナさんとドーナツショップへ行った。

「ユナの夏休みの予定は?」

「お盆に家族でハワイに行くわ」

「うわっ、豪勢ね」

「千歳はどこかに旅行しないの?」

「お母さんの実家に帰省するくらいかな。奏多は?」


 このふたりには手術のことを伝えておこうか、と思った。

 これからもつきあっていきたい友だちだから、顔が変わることをあらかじめ言っておくべきだろう。

「わたしは旅行はしない。手術を受けるの」

「えっ、なんの手術? 病気じゃないよね。もしかして……」

「美容整形手術と発電ユニット交換手術」

「美容整形、やることにしたんだ……。いいなあ」

「可愛くなりたい。お父さんとお母さんを説得して、やれることになったよ」

「どの程度の美容整形をするの?」

「目と鼻、顔の輪郭の手術をする。新しい顔を見ても、あんまり驚かないでね」

「輪郭まで変えるのか。巨乳で美人になるんだね。グラビアアイドルも夢じゃない」

「グラドルになりたいわけじゃないよ」

「目標はなんなの?」

「発電を極めたいんだよ」

「そっか。奏多はそういう人だよね」


「発電ユニット交換、やったばかりじゃない?」

 ユナさんが首を傾げた。

「十人級でも容量が足りなかったの」

「えーっ、奏多ちゃんって、ホントに発電お化けだね」

「ひどい言われようだなあ。やめてよ」

「じゃあ恋愛怪人」

「それも嫌」

 わたしが頬を膨らませると、ユナさんは黙り、コーヒーを飲んだ。


「何人級にするの?」

「百人級」

「エグい! あたしも最近、フルチャージがつづいてるんだよね。手術しようかなあ」

「一色くん発電だね。手術しなよ、十人級にしたら稼げるよ」

「そうだよね。あり余る恋愛エネルギーを有効に活用したいよねえ」

「実は私も、最近フルチャージなの」

 ユナさんがそう言うと、わたしと千歳はにんまりした。

「「堀切くん発電!」」

 いまの段階ではクラスで1番の美人が、顔を真っ赤にしてうつむいた。

 2学期には、わたしとユナさん、どちらの方がより綺麗になっているだろうか?


「まあ私の発電量も少し増えたけど、百人級なんて考えられない。奏多ちゃんは恋愛発電マシンだね」

 恋愛発電マシン。ユナさんの言葉はなぜかわたしの心に響いた。

 そう、わたしはグラビアアイドルになりたいわけじゃない。究極の発電マシンになりたいのだ。

 発電のために存在するマシンでありたい。

 たくさん愛されて、いっぱい恋したい。すべては発電のためだ。

 激しい発電音を聴くためなら、わたしはなんでもする。

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