第32話 百人級発電ユニット
須藤美容クリニックに行った日の夜、高額な手術を受けるか否かをめぐって、家族会議が開かれた。
手術費用を知って、お父さんは「そこまでのお金を払ってやることなのか?」と渋った。
「長い目で見て、やるべきよ。奏多のしあわせ、今後の売電収入の増加、それを考えて、ここは思い切って投資しましょうよ」とお母さんは言い、「お父さん、お願いよ! わたしは人生を変えたいの! 後で後悔したくない。この夏に手術したいの!」とわたしは迫った。
お父さんはいろいろと反論したが、わたしの熱意に負けて、結局は折れた。
美容整形手術を受けることは、正式に決定した。
その2日後には発電外科へ行った。
今度は両親ふたりともが付き添ってくれた。
十人級発電ユニット手術をしてくれた医師に診察してもらった。
わたしは先生に、十人級でも毎日フルチャージしていることを伝えた。
「そうですか。過充電になっているので、できればフルではない方がいいんですよね。8割くらいの充電量が理想的なんです」と医師は言った。
「ちょうどいい発電ユニットはないですか?」とわたしは尋ねた。
「発電量は個人差が大きいし、心の状態によっても変わりますから、ちょうどいいのがどれなのか決めるのは、とてもむずかしいんです。たいていの人は一般規格で間に合うのですが、ときどき規格外の方がいます。川尻唯さんや相生奏多さんは特別な人ですね」
「川尻唯ちゃんは百人級をつけているんですよね?」
「彼女が所属している芸能事務所の発表ではそうなっていますね。本当かどうかは私にはわかりません」
「十人級の上は、百人級なんですか?」
「二十人級や三十人級、五十人級もあります。プラント級とも呼ばれる最大サイズの千人級まで、各種の発電ユニットが取り揃えられていますよ」
「千人級まであるんですか……。そんなにすごいものをつけている人はいるんですか?」
「さすがに稀ですね。世界でも数人しかいないと言われています。もし千人級をご希望されるなら、メーカーの受注生産となるので、それなりのお時間をいただくことになります」
「千人級はいらないです」
「百人級までの費用を教えてください」とお父さんが言った。
当然のことだが、両親は支払わねばならない金額が気になるようだ。
医師が手術代が書かれた表を見せてくれた。
三十人級は十人級フルチャージで売電8か月分くらい、五十人級はおよそ10か月分、百人級は1年分ほどだった。
「奏多はどれにしたいんだ?」
「川尻唯ちゃんと同じにしたい。百人級がほしい!」
「そんなに必要か? 手術費用も高いしなあ……」
お父さんは難色を示した。
「フルチャージにならないくらいの発電ユニットがほしいの。フルチャージすると、わたしがどのくらい発電しているかわからないんだもん。百人級がいい。憧れの唯ちゃんと同じ発電ユニットをつけたい。お願い、お父さん!」
「うーん、どうしようかな……」
「手術費用は十人級フルチャージで売電1年分くらいですが、もし百人級でフルチャージできれば、2か月で利益が出ますよ」
「お父さん、わたし、がんばって発電するから!」
「うーん、お母さんはどう思う?」
「私は百人級がいいと思うわ。大は小を兼ねると言うしね。少しばかりの費用をケチって三十人級にして、もし過充電だったら、悔いを残すことになるわ」
「そうか。それもそうだな」
お母さんの発言が決め手となった。
「先生、百人級手術をお願いします」とお父さんは医師に告げた。
わたしはいまつけている十人級恋愛発電ユニットを百人級に交換することになった。
発電外科の医師に7月下旬の美容整形手術の予定を伝えると、その直後の発電ユニット手術は体の負担を考慮して避けるべきだと言われ、手術は8月下旬に行うことになった。
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