第31話 美容整形クリニック
期末試験のための勉強と並行して、わたしはネットで美容整形手術について調べまくった。
どこのクリニックがいいのか。
腕が良く、わたしの希望を理解して、可愛くしてくれる美容整形外科を探さなければならない。
価格は安かろう悪かろうでは困るが、ぼったくられてもマズい。
睡眠時間を削って、いろいろなクリニックのホームページやネットの口コミなどを読んだ。そして、手術前カウンセリングがていねいで、ビフォーアフターの写真が素晴らしいと思えて、コスパも悪くないと評判の須藤美容クリニックへ行こうと決めた。
院長先生に施術してもらうと価格が2割増しになるが、ふたりいる他の医師の腕もいいらしい。
全身麻酔をする場合は、麻酔科専門医にしてもらえるのも安心材料だ。
わたしは自分の顔を鏡で穴の開くほど見た。
どこをどういじるか。
カウンセリングで医師に希望を伝えなければならない。
可愛くしてくださいと曖昧に言うだけでは、なにをされるかわからない。
まずは両目を縦も横も大きくしたかった。
二重形成術、目頭・目尻切開について相談しよう。
鼻の形も変えたい。
丸い鼻の頭を尖らせたい。
鼻の穴の形も変えたかった。鼻翼縮小術を施してもらいたい。
顔の輪郭もいまのままでは気に入らない。
丸みを帯びたあごをシャープにしたい。骨を削られてもいい。
わたしの理想は川尻唯ちゃんの顔だ。彼女は整形美人。ならばわたしも、あの顔に近づけるはずだ。
期末試験が終わった。
ボロボロだった。なんとか赤点はまぬがれていると祈りたい。
でもまあ、終わった解放感は半端ない。
「奏多、期末試験終了を祝って、打ち上げしよう。鏡石珈琲に行かない?」
千歳が誘ってくれたが、今日はお母さんと美容整形外科へ行くことになっているのだ。
「ごめん、今日は予定があるんだ。また別の日に誘ってよ」
「わかった。じゃあユナとふたりで行くよ。また今度ね」
わたしはクリニックの最寄り駅の改札でお母さんと待ち合わせていた。
午後3時頃に会えて、予約をしていた美容整形外科へ向かった。院長先生ではなく、倉敷先生という医師に診てもらうことになっている。
清潔な待合室で20分ほど待ち、診察室へ呼ばれた。
わたしはお母さんと一緒に部屋に入った。手術費用を聞いて、ゴーサインを出すのは母の役目だ。
倉敷先生は、40歳くらいのものすごく顔立ちの整った男性医師だった。自身も美容整形をしているのだろう。この顔を見せられたら、多くの人が手術を受けたいと思うはずだ。わたしもぜひ施術してほしいと気持ちが前のめりになった。
「どのような美容整形をご希望ですか」と先生が低く落ち着いた声で言った。
「可愛い顔になりたいんです。わたしみたいな平凡な女が高望みをしていると笑われるかもしれませんが、川尻唯ちゃんの顔に近づきたいと思っています。具体的な希望はこの紙に書いてあります」
わたしは目や鼻、顔の輪郭の変更希望を書いたA4の紙を医師に渡した。
「相生奏多さんは平均より少し上の可愛い顔をされていると思います。笑ったりはしませんよ」
そう言って、先生はわたしの希望を読んだ。
「このご希望を一度にすべて叶えるとなると、手術費用はかなり高額で、手術後の痛みは相当大きいし、腫れが引くのに1か月くらいはかかると思います。それでもだいじょうぶですか?」
「美容整形手術って、どのくらい痛いんですか?」
「いまはたいていの手術をナノマシンで行います。美容整形も同じです。ナノマシン手術はメスを入れる手術よりは術後の痛みが少ないですが、無痛ではありません。ご希望の手術では皮膚を切り、脂肪を除去し、骨を削り、疑似骨挿入を行いますから、手術後3日間は痛み止めを飲んでも、眠れないほど痛みを感じる可能性があります。その後も1か月ほどはなんらかの痛みを感じつづけると思ってください」
痛いのは嫌だが、わたしの決意は固い。
「痛みと腫れを我慢する覚悟はあります。わたしは変身したいんです」
「そうですか。ではどのような顔にするか、具体的に相談していきましょう。まずは顔写真を撮らせてください」
医師がわたしの顔を撮影し、データをパソコンに取り込んだ。
「これが奏多さんのいまの顔です」
わたしはモニターを見てうなずいた。
先生はキーボードをカチャカチャとすばやく叩いた。
「ご希望に基づいて手術を行うと、おおむねこのような顔になります」
わたしは目を見張った。美容整形手術後の予想の顔は、わたしが思い描いていたとおりの美少女だった。
「素敵! 川尻唯ちゃんとはちょっとちがうけど、この顔も好き!」とわたしは思わず叫んだ。
「すごく可愛いわね」とお母さんも言った。
「お母さん、わたしこの顔になりたい! 手術を受けさせて!」
「そうね。先生、費用はおいくらになりますか?」
「見積りを出しますね。少しお待ちください」
先生はまたパソコンを操作し、見積書をプリンターから出して、お母さんに渡した。
「高いわね……」とお母さんはつぶやき、渋い顔になった。
「全身麻酔で行う顔全体の大手術ですから、安くはありません。他院なら、もっと高いかもしれません」
「お母さん、一生のお願い! 手術してもらえたら、一生懸命発電するから!」
わたしはお母さんの目を見て、すがるように頼んだ。
母はふーっと大きく息を吐いた。
「仕方ないわね、お父さんを説得するわ。もしだめだって言われたら、お母さんの貯金から出してあげる」
「ありがとう、お母さん!」
「先生、奏多をよろしくお願いします。手術してください」
「承りました。入院の必要はありませんが、手術日には午前9時に来てください。お帰りは午後5時頃になると思います。受付で予約を入れていってください」
わたしは7月下旬に美容整形手術を受けることになった。
この夏休みに、わたしは変身する。
痛みに対する不安はあるが、それよりも楽しみが上回って、飛び跳ねそうだった。
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