第30話 ユナさんの告白
わたしは森口くんや瀬名先輩、唐竹部長のことを想って発電しつづけていた。毎日それで十人級フルチャージ。
文芸部に入らないという選択肢はあり得ない状態だ。
6月中旬の水曜日、わたしは再び閉架書庫へ行った。
森口くんは文庫本を読み、瀬名先輩と部長は「また漫画を描きたい」「たまには小説を書けよ」などと話していた。
「こんにちは」と挨拶した。
「こんにちは。入部してくれる気になった?」
「おい、それは部長である俺の台詞だぞ」
瀬名先輩と唐竹部長が相変わらずなので、わたしはクスッと笑った。
「はい。文芸部に入部させてください。よろしくお願いします」
「歓迎するよ。入部届にサインしてくれる?」
「だからそれは俺の仕事!」
すばやく動いた瀬名先輩から入部届を受け取り、わたしはそこにボールペンで氏名を書いた。
「同じ1年生の部員ができてうれしい。よろしくね」
森口くんがはにかみながら言った。少し頬を紅潮させているのが好ましい。
「うん、よろしく。いろいろと教えてね」
「のんびりと本を読んだりして、好きにしていればいいと思うよ」
「森口くん、新入部員を甘やかしてはいかんよ。これから文化祭に向けて、部誌をつくっていかねばならないんだ。相生さん、文章を書く練習をしてくれよ」
「直、いきなりそんなにきびしくしたら、相生さんが来なくなってしまうよ。森口くんが言ったように、のんびりでいいからね、相生さん」
「右京、おまえまでそんなに甘いことを言うのか!」
「ボクは女の子には甘いんだよ~」
「ここは文芸の研鑽をする場なのに……。相生さん、頼むからなにか書いてね」
「はい。なるべくがんばります」
わたしはそう答えたけれど、文芸なんて適当にやるつもりだった。入部した目的は発電だ。
1年1組の教室では、ユナさんがたまに堀切くんとおしゃべりをするようになっていた。
急に親しげになった日があって、なにかあったなとわたしは思った。そう感じたのは、千歳も同じだったようだ。
わたしと千歳は放課後、ユナさんを誘ってハンバーガーショップへ行った。
「ユナ、なんかしあわせそうだね~」
「そんなことないよ。別に変わらない」とユナさんは言ったけど、明らかに浮ついていた。いつもキリッとしている口元がゆるんでいる。
「堀切くん、やっぱりかっこいいよね。別れたのは失敗だったかな。また仲良くしたいな~」とわたしは言った。
「それはだめ!」
ユナさんが血相を変えた。
わたしは千歳と目を合わせて笑った。
「そんなことしないよ。ユナさん、堀切くんとつきあってるの?」
彼女はやられた、という表情をした。
「告ったの?」
千歳が詰め寄る。
「告った……」
ユナさんはもう隠せないと観念したようで、白状した。
「どこで?」
「旧校舎の裏。手紙を書いて、彼の靴箱に入れて、呼び出した」
「うわっ、古典的」
「いいね~、やっぱりユナさん、堀切くんが好きだったんだね」
「悪い?」
「悪くないよ。ユナさんから告白したんだよね。なんて言ったの?」
「それ、言わなきゃだめ?」
「教えてほしいな」
ユナさんはもじもじしながら言った。
「私の電気をあげるから、つきあってください……」
「え?」
「だから、私の電気をあげるから、つきあってくださいって言ったの!」
「うわっ、なんかすごい台詞だね」
「で、堀切くんはなんて答えたの?」
「わかった、つきあおう。コードキスをしようって、言った」
「出た、堀切くんのコードキス。したの?」
「その場でした……」
「ええっ、学校で?」
「うん……」
ユナさんの顔は真っ赤になっていた。いつもクールな彼女が、耳まで赤くなっている。
これはすごく発電してるな、とわたしは思った。
わたしと堀切くんの相性は悪かったけど、ユナさんとは良さそうだ。
おしあわせに。
7月に入った。
もうすぐ期末試験があり、それが終わったら夏休みだ。
わたしは授業中に文芸部のメンバーのことばかり考えて発電しているので、試験はかなりヤバい。
自宅でがんばって試験勉強をした。赤点だけは取りたくない。
瀬名先輩や唐竹部長とは週1回しか会えないが、どちらも魅力的な男性なので、想像するだけで発電できる。
森口くんもつつましくて好感の持てる男の子だ。
誰が1番好きなのか、わからないのが現状。
正直に言うと、3人とも大好きだ。わたしは気が多すぎると自覚している。
男子文芸部員全員でバリバリ発電していることは、千歳にもユナさんにも秘密にしている。それを言うと、さすがにあきれられてしまうだろう。ビッチと思われるかもしれない。
誰で発電しているかなんて、自分にしかわからない。他人に言う必要はない。
わたしの発電は快調。毎日十人級蓄電機フルチャージ。
この実績を見て、お父さんもわたしの美容整形手術と発電ユニット交換手術にかなり前向きになっている。
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