第27話 文芸部
森口くんは、堀口くんとちがって、わたしに告白してくれそうにない。
彼はとてもおとなしい男の子で、目が合うことはあるけれど、話しかけてくることはめったにない。
前に文芸部の見学に誘われたことは、本当にレアな出来事だったのだ。
森口くんのことを考えているだけで発電できるけれど、十人級蓄電池フルチャージにはいま一歩至らない日がつづいた。9割くらいの日々。
このままでは物足りない。
つまらない。
彼にもっと接近するため、わたしは水曜日の放課後、文芸部室へ行くことにした。
図書室の隣で活動していると言っていたはずだが、文芸部室らしき部屋は見つからなかった。
わたしは図書室に入り、貸出返却カウンターにいる図書委員に話しかけた。
「すみません、文芸部が図書室の隣で活動していると聞いたのですが、どこかご存じですか?」
「ああ、文芸部員なら閉架書庫にいますよ」
「閉架書庫?」
「閉架書庫というのは、ほとんど貸出のない古い本を保管しておく部屋で、図書室の中に出入口があるんです。わかりにくいですよね」
図書委員が案内してくれた。
図書室の出入口は廊下側にあるが、閉架書庫は図書室内の窓側にドアがあった。
これでは一般の生徒には見つけられない。
閉架書庫には古書が詰め込まれた書架が並んでいて、微かにかびくさかった。
その一角にテーブルとパイプ椅子が置かれたスペースがあり、そこに3人の男子生徒が座っていた。
そのうちのひとりは森口くんだった。
「文芸部さん、お客さんよ」と言い残して、親切な図書委員は持ち場に戻っていった。
「あっ、相生さん、来てくれたんだ」
椅子に腰掛けて本を読んでいた森口くんが立ち上がった。
その他のふたりの男子は座ったままわたしを見た。ひとりはノートパソコンになにかを打ち込んでいる最中で、もうひとりはスケッチブックに鉛筆で人物画を描いていた。
人物画は美術部員か漫画研究会員が描いたものかと思うほど上手だった。
「先輩、この人は相生さん。僕と同じクラスで、読書が好きなんです」
「相生奏多です」
わたしは軽く頭を下げた。
「森口くんのクラスメイトか。まあそこに座ってよ」
ノートパソコンを持っている方の男子が言った。文芸部よりバスケットボール部の方が似合いそうな背の高い男の子。
わたしは空いているパイプ椅子に座った。森口くんの隣だ。
「2年の
「同じく2年の
絵を描いていた方の先輩は、男子の制服を着ていなければ女の子かと勘ちがいしそうな小柄な美少年だった。
ふたりの先輩を見ただけでわたしは発電してしまった。タイプはちがうが、どちらも魅力的な男性だ。
「今日は見学です。入部するかどうかはまだ……」と答えたが、わたしはそのときすでに入部したいと思っていた。
「そっか。まあ、ゆっくりしてってよ。ここは読書するには天国みたいなところだよ。静かだし、昭和時代に発行されて、すでに絶版になっためずらしい本もいっぱいあるんだ」
「右京、そういう説明は部長である俺に任せてもらいたいな」
「ごめんよ、直。可愛い女の子が来てくれたから、歓迎しなくちゃって思ってさ」
可愛いと言われてドキッとした。わたしなんかより瀬名先輩の方がよほど可愛いと思った。
「文芸部は俺と右京のふたりの2年と1年の森口くんの3人が部員なんだ」
男の子だけ3人?
わたしはドキドキし、ボボボンと発電した。
森口くんも割と顔立ちが整っているし、もしかしたらここは発電のパラダイスになるかもしれない。
「飲み物をどうぞ」
瀬名先輩がレモンティーのペットボトルをくれた。
「閉架書庫で飲み物を飲んでいいんですか? 図書室は飲食禁止だと思ってました」
「本当はいけないんだけどね。ふた付きの飲み物は黙認してもらってるんだ」
先輩がきれいにウインクした。こんなに見事なウインクを映像以外で見たのは初めてだった。
ボボッ、ボボボン、ボボボボボボボボボボボボボ。
美少年に見惚れてしまって、わたしの発電機は激しく反応し、大量の電気を生成した。
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