第25話 女たちのおしゃべり

 わたしと堀切くんのようすがおかしいのに気づいた千歳が、わたしをハンバーガーショップに誘った。ユナさんも一緒だ。

 放課後のマクナだかマルドだかで、わたしはチーズバーガーといちごシェイク、千歳はソーセージエッグバーガーとポテトとコーラ、ユナさんはコーヒーを持って、椅子に座った。


「ねえ、全然堀切くんと話してないよね。どうかしたの?」

「彼とは終わったよ」

「えーっ、なんで? もう別れちゃったの?」

 千歳がうれしそうなのが、ちょっと腹立たしい。他人の不幸は蜜の味と言うし、仕方がないと思うけど、露骨に出すな。


「彼は電気が目当てだったのよ。わたしの電気をほしがって、コードキスをせがんだ」

 千歳とユナさんの目が点になった。

「なんなの、コードキスって?」

「コードでお互いの胸の端子をつなぐのよ。そうしたら、体内蓄電機に電気がたくさん溜まっている方から、少ない方へ送電されるの」

「えっ、それってなんかエロくない?」

「まあエロいかもね。まちがいなく胸の谷間は見られたし」

「奏多の谷間か。相当にエロいね」

「バカ」

「堀切くんは奏多の体と電気が目当てでつきあったってわけか。かっこいいと思ってたけど、幻滅したね。数馬の方がずっといい男だってことがはっきりした。ああ、あたしはしあわせだなあ」

 千歳が威張って惚気ている。つくづく腹立たしい。


 ユナさんはあごに手を当てて考え込んでいた。

「堀切くんはなんでコードキスなんてしたんだろう?」

「だからわたしの電気が目当てだったんだよ」

「電気くらいで嫌われるかもしれないことをするかな」

「彼の家は貧乏なんだって。母子家庭だって言ってた。おじいさんとおばあさんも貧しくて、わたしは彼の祖父母の家の蓄電機にも充電させられたよ」

「なにそれ、ひどーい」

 千歳は嫌悪感をあらわにしたが、ユナさんの反応は逆だった。

「それって、堀切くんが家族思いだってことだよね。いい人じゃないの」

「うーん。でもわたしは嫌だった」

「そう……。とにかくいま、彼はフリーになったってことね?」

 わたしはユナさんが堀切くんを好きなんだと確信した。

 まあもうわたしには関係ないことだ。

 もしユナさんが彼とつきあいたいのなら、告白なりなんなり好きに行動すればいい。


「恋が終わっちゃったなあ。胸の空白を埋めたい……」

「また新しい恋をしなよ」

「軽く言ってくれるねえ。わたしには魅力がないから、簡単には両想いになれないんだよ」

「いや、あると思うよ」

 ユナさんはわたしの胸を見ていた。わたしの魅力はそれだけか。


「ユナさんは綺麗でいいなあ。わたしも圧倒的な美貌がほしい」

「川尻唯みたいな?」

「そう、川尻唯ちゃんみたいな」

「美容整形すればいいじゃん」と千歳が言った。

「えっ、整形?」

「川尻唯、整形美人だよ。有名な話。本人も美容整形手術をしたことを隠してないよ」

 千歳がスマホでアイドルのビフォー、アフターの画像を見せてくれた。単に可愛い女の子が、可愛くて超絶綺麗な子に変貌している。

「これは別人だね……」

「でしょう? 美人になりたければ、美容整形すればいいだけだよ。あたしたちみんな、心臓の横に発電ユニットをつける手術をしているんだよ。整形手術なんて、それに比べれば、たいしたことないと思うな。あたしもお金さえれば、しようと思ってるもん」

 美容整形か。

 わたしはその話に強く興味を持った。

 恋愛発電のためなら、してもいいかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る