第24話 別離

 わたしの恋愛発電がピンチだ。

 ハイキングデートを終えてから、堀切くんを見ても、胸キュンしない。発電できない。

 イケメンを見れば、即発電というわけではないのだ。

 スマホには彼からのデートの誘いのメッセージがあるが、それを見てもときめかない。

 心が離れてしまっている。

 この恋はもう終わっているのかな。


 千歳が一色くんと楽しそうにおしゃべりしているのが、すごく羨ましい。

 わたしは堀切くんの祖父母に電気をあげたときから、しらけてしまっている。

 問題は彼とどう別れようかということに気を取られて、他の男の子を見ても発電できないことだ。

 これは困る。

 早急にこの問題を解決し、次の恋をしたい。


『放課後、校門で待っているね』 

 これが彼からのメッセージだ。

『わかった』とわたしは答えている。

 別れよう、と決めている。


 放課後、堀切くんはわたしをまたあの親水公園に連れていった。

 コードを取り出す彼を見て、もうコードキスはしたくない、この人とは絶対に、と思ってしまった。

 完全に彼から心が離れている。

 今日はまったく発電できていない。

 こんな状態にわたしを追い込んだ彼が、はっきりと嫌いだ。


「コードキスしよう」

「こんなの全然キスじゃないよね。ただの送電だよね。したくない」

 わたしがきっぱり言うと、堀切くんが傷ついた顔をした。

「祖父と祖母だけじゃなくて、うちも貧乏なんだよ。父親がいなくて、母さんの収入だけで暮らしているんだ。電気を施してほしい……」

「よく発電する子は好きだって言ってたよね。堀切くんはわたしの電気が目当てでつきあってるの?」

「そうじゃない。いや、電気はほしいんだけど、それだけじゃない……」

「電気も目的ってことだね」

「そうだね。ごめん、それもある……」

「電気をあげるのは別にかまわない。でも、なんだか恋愛よりも電気が目的なのかなって思うと、がっかりしちゃった」

 堀切くんはうなだれていた。


「コードをつないでみようか」

 わたしはコードを手に取り、プラグを胸の端子に差し込んだ。

 堀切くんものろのろと接続した。

 ポポポポポと音がした。堀切くんの蓄電機から、わたしの方へ電気が流れ込んでくる。

「こ、これはどういうことなんだ?」

「多い方から少ない方へ流れるって言っていたでしょ。つまりそういうことだよ。わたし、今日は全然発電していないもん。電気をくれてありがとう」

 堀切くんは怒った形相になり、コードを自分の端子から引き抜いた。


「おれの電気はやれない」

「一方的だね。わたしは堀切くんにあげたのに、あなたはわたしにくれないの?」

 彼は無表情になった。

 わたしも端子からプラグを抜いて、コードを堀切くんに渡した。

「もうつきあえない」

 わたしはあずまやのベンチから立ち上がり、美しいけれどひとけのない寂しい公園から出て行った。

 短い恋だった。

 コードキスはしたが、唇のキスはしないで終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る