第23話 反発

 堀切くんのおじいさん、おばあさんの家を出たとき、山に夕陽が沈もうとしていた。

 空が茜色に染まり、山脈がシルエットになって、とても美しい景色だったけれど、わたしの気分は鬱だった。

 彼と仲良くなりたかったのに、もう信じられる気がしない。


 帰りの電車の中で、わたしは黙りこくり、堀切くんも車窓を見ているだけだった。外はすっかり夜景になっている。

 わたしが降りる3駅前で、彼がぽつりと言い放った。

「相生さん、すごく熱心に発電してるよね……」

 彼の目はまだ暗い車窓を見ていた。

 わたしはひとつだけ星が光っている夜空を見上げた。

「そうだね。できるだけたくさん発電したいって思ってる」

 彼は瞳だけを動かして、わたしを見下ろした。 

 わたしはようやく彼と目を合わせた。

「どうしてそんなに熱心なの?」


 しばらく考えてから答えた。

「どうしてなんて、考えたことないや。発電は正義だから?」

 堀切くんが理解できないというふうな顔をした。

「発電は別に正義じゃないよね。富める者が貧しい者に施すのは正義だと思うけれど」

 ユナさんも発電は正義ではないと言っていた。

 わたしはうなずけない。

 たくさん発電できるのはわたしの取り柄だ。

 恋愛発電はクリーンで正義だと思いたかった。川尻唯ちゃんもそう言っているし。

 堀切くんに反発する気持ちが湧いてきた。

 別に少しくらい電気を分けてあげても全然かまわないし、あげてもすぐに補充されるけれど、恋愛発電を正義じゃないという言葉には断じてうなずけなかった。


 補充……?


 わたしはふと気づいた。

 堀切くんの祖父母の家でも、帰りの電車内でも、わたしはまったく発電していない。あの一軒家の古い蓄電機に回した分の電気は、欠落したままだ。

 補充できていない。

 わたしは堀切くんで発電できなくなっている。

 自分の祖父母のためにわたしの電気を使って、自分の電気は持ち帰ろうとする彼に、もうときめくことができない。


 わたしは「さようなら」とそっけなく挨拶だけして彼と別れ、自宅に帰って、今日発電した電気を家庭蓄電機に送電した。

 電気量はいつもと比べ、施した分だけ少なかった。

 たいした損ではない。

 しかしわたしの心は大金を失ったかのように乱れ、あの男とどうやって別れようかということばかり考えていた。

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