第15話 Q.E.D

 翌日登校すると、「おはよう、十人級発電ユニットは無事ついた?」と千歳から声をかけられた。

 わたしはニコッと微笑んだ。

「うん、手術成功だよ。最初の麻酔注射以外はちっとも痛くなかったし、日帰りで手軽にできたし、これで限界まで発電できるなら、やってよかったって感じかな」

「おお、饒舌。元気になったね、奏多。確かにやってよかったな」

「えー、わたし、元気なかった?」

「ああ、一昨日まではゾンビみたいだった」

「ゾンビはひどいなー。これでも女子高生だよー」

「なんかノリ変わってるぞ。十人級恐るべし……」


「すごいなあ十人級。うちのクラスでは奏多だけだよね」

「どうだろう。他の人が何人級かは知らない」

「たぶんこのクラスでは相生さんだけだね。十人級をつけてるのは、学校全体でも3人くらいだと思う」と言ったのは一色くんだ。

「え、そうなんだ。よく知ってるね、数馬ぁ」

 千歳が一色くんの下の名前を甘えたように言った。このふたりの仲はだいぶ進展しているようだ。もうつきあっているのだろうか。

「さる情報筋から聞いた」

「どこの情報筋なの?」

「教えない」

「ちぇっ、謎の人脈教えてよー」

「だーめ。並みの努力で得たものじゃない。放課後ファストフードで駄弁ってるだけのやつには教えられない」

「えー、今日ハンバーガー奢るからさあ、教えてください」

「アホ。せめてピザを奢れ」

「じゃあ、放課後ピザねー」

 さりげなく放課後デートの約束をしているあやしいふたり。

 ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ。

 わたしの発電機が快調に回る。


「たった3人か。普通の発電ユニットを能力限界まで使い切ってる人は、もっといると思うけどな」

「いるだろうね。でも手術まで踏み切るやつは少ない。高かっただろ、手術代? 発電手術は、最初以外は保険が適用されない自由診療だし」

「うん、高いね」

「だからだと思うよ」

「でも、恋愛発電って、十代のときがピークかもしれないよね。学生がもっとチャレンジすべきだと思う」

 一色くんがわたしの顔をマジマジと見た。

「その積極的発言、確かに少し変わったね、相生さん。性格や行動まで変容するなら、手術を受ける価値はあるかもしれないな」

「数馬ぁ、あたしも手術するべきだと思う?」

「おまえは毎日フルチャージしてるのか?」

「してない」

「まずはそっからだろ」

 千歳と一色くんの親密さが変容している。なんか羨ましい。

 わたしは席に座った。その後も担任が来るまで、ふたりはべたべたとおしゃべりをつづけた。

 そのようすを見て、わたしは発電に勤しむ。

 ポポッ、ポポポッ、ボウボウボウ、ボボボボボボボボボボボボ。

 

 授業中もわたしの新品発電ユニットは調子よく回転した。

 堀切くんを意識すると、ポポポポポという音がした。

 知多くんだとポッポッポッポッポッ。

 森口くんならボボボボボで、目が合うと、ボッ、ボガッ、ボンボボボッと高鳴った。

 わたしは堀切くんや知多くんが好きだが、より森口くんに惹かれているのはまちがいないようだ。

 機械である発電ユニットで恋愛の度合いを測るなんておかしいかもしれないが、非常に客観的で正確な判定とも言える。

 恋愛発電機は堀切くんや知多くんよりも、断然大きく森口くんに反応しているのだ。ゆえにわたしは森口くんに恋している。証明終わり、Q.E.D。

 水曜日に文芸部の見学をしようとわたしは決めた。

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