第9話 効率的な発電の方法

 次の日も、わたしは教師や黒板を眺めながら、意識を森口くんに向けた。

 ヴ、ヴ、ヴ、ヴーン、ヴヴーン。

 発電機が起動して、蓄電池に電気を送り始める。 

 森口くんはわたしを秘かに見つめているだろうか。

 読書が趣味のおとなしい彼が、わたしに慕情を抱いていて、真面目に教壇を見ているように見せかけながら、実はわたしをガン見していて、それは千歳にもユナさんにもバレている。

 想像すると、調子よく発電機が回る。

 ヴンヴンヴン、ヴヴーン、ヴヴヴヴヴ、ヴヴヴヴーン。

 発電音はわたしがこの世で一番好きな音だ。


 2時間目に堀切くんが振り返ったが、わたしとは目が合わなかった。

 そのときわたしは黒板消しを見ていた。

 互いに見つめ合わないと、視線は絡まない。

 わたしは網膜の焦点を黒板消しに合わせながら、目の端で彼のようすをチェックした。

 堀切くんはいくぶんかがっかりしたようすで、元の姿勢に戻った。


 わたしの発電にいまもっとも大事なのは、森口くんに見つめられているという想像だった。

 後ろを向いて、彼が本当にわたしを見ているか確かめたかったけれど、あえてそうしなかった。

 万が一わたしを見つめていなかったら、発電できなくなってしまうではないか。

 千歳とユナさんが確認したと言っていたけれど、振り向いても森口くんと目が合わなかったら、きっとわたしは落胆して、信じられなくなってしまう。

 確かめる必要はない。

 彼がわたしを見ているという想像が、わたしの背筋をぞくぞくさせ、効率よく発電ユニットを働かせる。


 中学時代にわたしが意識して、よく発電させてもらっていた男子がいたが、彼はいっこうにわたしを見ようとしなかった。そのうちにわたしは萎えて、その人では発電できなくなった。


 現在わたしを1番効率よく発電させてくれるのは、わたしを好きな可能性が高い森口くんで、2番目はときどきわたしの方を向く堀切くんで、3番目は知多くんだ。

 知多くんは格好良くてすごく気になっているけど、わたしを見ようとしない。

 わたしもなるべく彼を見ない。

 せっかくの発電相手なのに、彼が全然まったくこれっぽっちもわたしを意識していないと見極めてしまえば、できなくなってしまうだろう。

 そんなもったいないことはしない。


 振り返って森口くんと目が合ったら、その瞬間に発電機の回転数が跳ね上がるのではないかという予感がある。

 想像でも十分に発電できるけど、もちろんリアルに体験した方が、発電効率がいいに決まっている。

 確認したい。確認したい。森口くんがわたしをどのように見ているか確認したい。

 4時間目には、その誘惑に抗しきれなくなって、わたしは後ろを向いてしまった。

 森口くんに舐めるように見られていた。

 ほんの少しだけ見つめ合う形になって、彼は明らかに狼狽し、うつむいてしまった。

 ヴヴーン、ヴンヴンヴヴーンと発電機が唸った。

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