第8話 ハンバーガーショップ

 沖館さん、宇津木さんとともに、世界を席巻しているハンバーガーショップへ行った。

「マドドけっこう好きなんだ~。安いし長時間粘れるし~」

「先週マナルって呼んでたよね」

「今週はマドドだよ~」 

「新名称マクルを提唱する」

「それは来週使おう~」

 この会話に入るのは難易度が高すぎる。


 沖館さんはフィッシュバーガー、フライポテト、コーラを注文。

「深海魚のフライ、美味しいよ」

「えっ、深海魚を使ってるの」

「タラよ。お店の中で言うな」


 わたしはハンバーガーとチョコシェイクを頼んだ。

 南極大陸以外をカバーしているこのチェーンのピクルスが好き。甘ったるいシェイクも。

 宇津木さんはコーヒーだけ。まだダイエットをつづけているようだ。


「森口くん、奏多のこと見てたね」

 座ってすぐに、沖館さんから名前を呼び捨てされ、びっくりした。

「え、名前呼び?」

「あれえ、だめ? もう2回も遊んでるんだからさあ、いいかなと思って」

「いいけど、早くない?」

「早くない。ずるずると相生さんって呼んでると、そっちが定着する」

「沖館さん……」

「千歳でいいよ」

「ち、千歳さん」

「かたいなあ。さんはいらない」

「千歳……」

「私は奏多ちゃんって呼ばせてもらっていいかな」

「うん、ユナさん……?」

「私もさんはいらないよ」

「ユナさんはユナさんって感じなんだけど」

「まあどっちでもいいけど」

「え、扱いのちがいひどくない?」


 千歳がユナさんにポテトを食べさせようとして、嫌がられている。

 揚げ物は断固拒否らしい。

 並んで座るふたりがわたしの方を見て、「「話題を戻そう」」と言った。

「森口くん、まちがいなく奏多を見てる。あたしは確かめた」

「私が言ったとおりでしょ」

「そうなんだ……」

「めっちゃ見てる。舐めるように見てる。なんなら視姦まである」

「やめろ、冗談じゃすまん。森口くんにかわって名誉棄損で訴える」

「わたしもセクハラで訴えるよ」

「敗訴決定。示談でお願いします」


「でもだめだよね~。奏多は堀切くんが好きなんだから」

「そうでもないんじゃないの? 奏多ちゃん、午後は森口くんで発電してたよね?」

「どうしてわかるの?」

「見てればわかるよ、なんとなく」

 一色くんにもなんとなくって言われた。わたしはわかりやすいのだろうか。

 千歳とユナさんに友だちになってもらえるのは嬉しいけど、おもちゃにされている感もある。

「じゃあ、奏多は森口くんでいいじゃん。堀切くんはあたしがもらう」

「堀切くんは倍率高いよ。恋敵は奏多ちゃんだけじゃない。クラスの女子全員かも」

「ユナも?」

「私はちがうけど……」

「もしかしてユナは知多くん派かな~」

「知多くんも倍率高いよね」

 知多くんもやっぱり競争率高いのか。わかってたけどね。

 

 恋バナをしていると、わたしは発電してしまう。

 今日も体内蓄電池はとっくにいっぱいになっているはずだ。

 千歳やユナさんも発電しているのか気になったが、尋ねることはできなかった。

 発電してないって否定されたり、この程度でユニットが作動するわたしが異常だって思われるのが怖かった。


 5時半まで粘っておしゃべりして発電してから帰宅した。

 すぐにキッチンへ行き、電気を家庭蓄電池に移す。

 フルチャージにして、わたしは満足し、お母さんもご満悦。

「お母さん、わたしの蓄電池、もっと容量を大きくした方がいいかも。毎日、容量オーバーになるほど発電してるから」

「そうねえ。お父さんも売電に乗り気だったし、この際、奏多の発電ユニットと家の蓄電池、両方新調した方がいいかもしれないわね」

 発電ユニットを新調!

 素敵だ、と思った。

「わたし、新しいユニットがほしい!」

「奏多の能力を存分に発揮できるようにするのは親のつとめよね。お父さんにお願いしましょう」

 どぶに捨てている電気を、ぜひとも有効活用したい。

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