第130話 文化祭当日
「今年も飾り付け、気合い入ってる」
「ほんとだね」
文化祭当日、俺たちは飾りつけられた校門をくぐる。まだ人気の少ない校内だけど、一夜にして豪華に施された装飾が出迎えてくれた。
見慣れているはずの景色も、まったく別のものに見えるこの2日間が好きだ。
「おっはようございまーす!」
部室、もう開いてるな……?と思いながらドアを引くと、元気の良い挨拶が飛んできた。
「元気いっぱいだな」
「そりゃそうですよ! 高校生の間の一大イベントのひとつ、文化祭ですからね」
優愛はいつにもましてテンションが高い。去年の俺も、紬と一緒に回れるということでテンションが高かったので人のことは言えないけど。
「……まあ、今からやるのは作業だけど、大丈夫か?」
「……? 先輩方と一緒に働くのももちろん、ほんとに楽しみにしてましたよ」
「そう言ってくれるなら心強いな」
多少絡みがウザい瞬間もあるけど、優愛が良い後輩であることは間違いない。さて、そろそろ作業に移るか……というところで、紬の表情の中に微妙な感情を感じ取った。
「紬は言わなくても分かってるから」
「あ〜! その、せんぱいたち2人だけに伝わる目配せみたいなのダメです!」
俺が紬に向かって微笑みかけると、紬は納得した表情で頷き、優愛は抗議してくる。
「……私の勝ちです」
「負けたぁ……」
さっきまでの微妙な気持ちの揺らぎはどこへやら、紬はドヤっという心の声が聞こえてきそうな微笑みを見せる。
ところで、いつから勝ち負けを競っていたんだ……?
朝から火花を散らしているふたりを誘って、とりあえず作業に移ることにした。
「ま、これで設営は完了かな。あとは鈴木さんが連れてくる子たちを迎えるだけ……!」
ストレスを最低限に抑えるためにも、並べたケージは大きめで、見学時の最大進出ラインを定めたテープを床に引っ張った。これで、預かった猫たちを安心してお客さんに見せられるな。
そんなところで、順調そうだな、と満足げな声が背後から聞こえた。
「おはようございます、早乙女先生」
「うん。実は出店の安全管理担当を任されてしまってな……あんまり見に来られないかもしれないが、頑張れ」
俺たちは声を揃えて、任せてくださいと返す。
「空き時間見つけて、見に来てください」
猫をどうしてもひと目見たいと顔に書いてある早乙女先生に、優愛は声をかける。
「……もちろん」
早乙女先生は、目を丸くした後、優愛に笑顔を見せて去っていく。クールビューティーが突然見せた笑顔に、優愛は驚いてその場で固まっている。
カツンカツン、と聞こえていた足音がにぎやかになり始めた周りに消えていったあと、優愛は頬を赤らめて、力が抜けたように椅子に腰かける。
「な、なんかカッコよかった……」
「早乙女先生の感じ、憧れますよね」
紬は優愛に微笑みながら言う。なんかちょっと意外な発言だな……?
「紬も憧れてるんだね」
「はい。どうやったらあんな風にかっこよく振る舞えるんだろう、とか思います」
「最初に紬と話したころは、早乙女先生みたいにわりとクールな印象だったよ。ミステリアスでもっと知りたくなるような雰囲気もあったし」
前もこんなこと、伝えたような気がする。いまは俺の前だと、まったくそんな感じではないけど。
「……今はどうですか」
「ん、正直に言うと……やっぱ、後輩の目の前だし、なしで」
「あとで聞かせてくださいね?」
「……放っておくとすぐイチャイチャしますね」
さすがにジト目を向けられてしまった。
「お疲れ様~! 連れてきたよー」
鈴木さんは数人のメンバーとともに猫たちを連れてきた。
生後三か月ぐらいに見える幼い猫から、数年かけて育ってきたと思われる、まるまるとした贅沢ボディーの猫まで、総勢5匹の猫たちが部室を訪れた人間を癒してくれることだろう。
「ありがとうございます。では、譲渡を強く希望する方がいらっしゃったら、説明を行います」
「うん。それで私らの連絡先を教えてくれたらオールオッケーだよ。じゃ、15時にまた来るから、そっからの片づけは私たちに任せて、いろいろ回ってきなね」
「あ、ありがとうございます!」
今しかできないことなんだし、と笑顔で言って、いきなり顔を近づけてくる。
「紬ちゃんといっぱいイチャイチャするんだよ?」
「わ、わかりました」
よろしい、と頷きながら再び笑って、鈴木さんは頑張ってねと俺たち3人に声をかけて去っていく。
「たった3人で大変だと思うけど、頑張ろう」
「「はい!」」
9時。チャイムが響いて、高らかに文化祭の開幕を告げる放送が流れる。
数分もすると、部室回りもにぎやかになってきた。他校の制服を着た高校生の姿や、子供連れの人たちの姿も見られる。
「「「かわいい~!」」」
10分ほどの内に、部室の入場制限をかける必要が出てきた。
どうやら、俺たちの企画は上手く回りそうだ。
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