第109話 買い物エンカウント

 俺たちは結局、ショッピングセンターに遊びに行くことにした。


 「優愛とたまに行くぐらいだな」

 「雨だと、こういうところしかないんだよな」


 ショッピングセンターは、男ふたりで来るには若干微妙なチョイスではある。まあ、ゲーセンだとかスポーツ用品店とかのおかげで確実に退屈はしない。


 「とりあえず、ゲーセンでも行くか」

 「そうだな」


 ゲーセンなんて、相当久しぶりだ。

 派手なBGMが鳴り響いていて、鮮やかな色とりどりの光が眩しい。

 その中で、あるUFOキャッチャーの機械に目が留まる。


 「……これ、取りたいな」

 「めちゃくちゃ可愛いな」


 登校用のリュックにでもくっつけられそうな手頃なサイズのトラ模様の猫のぬいぐるみと目が合った。なんとなく、取ってほしそうな目をしている気がする。


 紬が喜びそうだな、と思いながら俺は取れるかどうか測ってみる。

 

 「……なんだか、お互い影響し合ってる感じがすごいな」

 「……危うく狙い外すところだったじゃねえか」


 いきなりそんなことを言われると、狙いが上手く定まらなくなるのは当然だろう。

 この機械が30秒経つまでなら自由に動かせるタイプで良かった。……って、もうあと5秒になるところだ。


 「……惜しい」


 うまい具合に掴んだのに、穴の手前で落ちて、ぐっとこぶしを握りしめる。


 「もうちょっと左じゃね?」

 「うん、もう一回」


 俺は流れるように百円を追加投入する。

 

 「……惜しいな」

 「もう一回」


 「……いや〜、今のも行けそうだったけどな」

 「次」



 試行回数はそろそろ二桁に達しそうだ。これで取れずに帰ったらショックが大きすぎる。


 「やっと取れた……!」

 「ひとつでいいのか?」

 

 お金が足りねえなら貸すけど、と陽翔は声をかけてくる。申し出はありがたいが、お金は一応まだあるし、それに今日は運がなさそうだし。


 「うん。今日のところはこれで。陽翔はなにか取らねえの?」

 「お、俺の技見とく?」

 「けっこうな自信だな」

 「まあ見とけよ」


 自信ありげな陽翔が台を選ぶのに付いて行く。

 流石にぬいぐるみ狙いではなく、スナック菓子を狙うらしい。

 

 百円玉がカラン、と音を立ててから、ものの数秒で狙いを定め、それからまた数秒して、今度はガタン、と箱が落ちてくる音がした。


 「……めっちゃ上手いな」

 「妹と来ると、なにかしら取ってって言われるからな」

 「なるほど」


 ちゃんとお兄ちゃんしてる証拠というわけか。


 「もう一台だけしていいか?」

 「うん、いいよいいよ。次行くところも思いついてないし」


 そう言うと、陽翔はさっき俺がプレイしていた台に戻っていく。

 陽翔もあのぬいぐるみが欲しくなったのだろうか、あ、優愛にあげるのか。


 今度は2回プレイした結果、猫は俺たちに迎えられた。


 「……これは俺から蒼大に、ってことで」

 「え?」

 「これでお揃いにできるだろ」

 「あ、ありがとう」


 勢いのままもらってしまった。

 優しいところあるな、とじんわりと心が温かくなる。


 「そんで、次は水着コーナーに行きたいんだけど。可愛いのあるかな」

 「……感動を返してくれないか」


 自分のなら良かったのに。最後の一言で急に残念になった。

 でも、あと1ヶ月するかしないかのうちにもう海のシーズンがやってくるのか。


 「そんなこと言って、花野井さんの水着姿は見たいだろ」

 「……それはそうだ」


 そう返す以外にない。というわけで、俺たちは水着コーナーに向かう。

 スクール水着は見たことあるけど、他の水着はどんな感じなんだろ。


 男子高校生の想像する水着なんて、99%ビキニタイプだけど、紬はワンピースみたいな水着もばっちり似合うだろうな。過度に露出が多すぎない方がいいような気もする。

 

 「まあとりあえず、自分たちのから見よう。仲いいメンツで海行ったりするだろ」

 「そうだな。海パン見るだけだけどな」


 そう言って俺たちは男の水着コーナーを目指す。やっぱり規模としては男物は若干少ないようにも感じる。


 「あ……蒼大くん」


 試着室のすぐそばを通り過ぎようとすると、目の前に紬が立っていた。その手には、数着の水着が握られているのが見えた。


 「ど……どうしてここに?」

 「俺もショッピングセンターに来てて、成り行きでここに来たというか」

 「そ、そうだったんですね」


 女子の水着を見に来たとは思われたくないな、と思ったが、そこまで今は考えていないみたい。

 紬は動揺しているようで、さっそく耳の先っちょまで赤く染まっている。


 「……あれ」


 水着を選んでいたらしい氷室さんがこちらに気付いたらしい。

 そんなにひんやりした目で見ないで? 最初からビキニとか見に来たわけじゃないから……シンジテ。

 氷室さんはなにやら、紬にこそこそと囁く。


 「……蒼大くんには、まだ見せたくないです」


 そう言って逃げるように試着室に入っていく紬をぼーっと眺める。

 そこには、同じく立ち尽くしている氷室さんと陽翔がいた。


 ……いや、可愛すぎるだろ。

 

  



 



 

 


 


 


 

 


 

 


 





 


 

 


 

 



 


 


 

 



 

 

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