第95話 ゴールデンウィークの始まり
やっとゴールデンウィークがやってきた。
4月はいろいろイベント事があったり、環境が変わったりして忙しいからか長く感じた。
寝転がったままきなこをもふりながら、早乙女先生は今頃4匹とまったりしているんだろうな、と思いを馳せる。
早乙女先生のことだから、休日も決めたタスクはこなすのだろう。けど、キーボードにしらたまやハルが乗って構ってくれと訴えるのを相手にしてあんまり仕事は進まなさそう。
優しく子猫たちの顎を撫でて、普段のクールな表情が崩れて「ふふっ」と微笑む早乙女先生の姿は……うん、各方面からの需要が多そうだ。
今日は紬が朝から来ると言っていたので、そろそろ起き上がって朝ごはんを食べるとしよう。
今日のお昼は何が良いかな、と思いながら、軽めにパン1枚をいただいた。
出かけるための服に着替えたところで紬が訪ねてきて、俺は飛ぶように玄関に向かう。
玄関のドアを開けると、朝の眩しい光に照らされて紬は立っていた。
「おはようございます。……その、どうでしょうか」
「……」
紬は、こないだ俺がリクエストした通りに、髪を編み込んでハーフアップにしている。いつもよりいっそう、上品な可愛らしさだ。
一言では到底言い表せない可愛さなので、俺はなんと伝えるべきか迷う。
「あ、あんまり期待通りでは……なかったですか?」
紬は不安そうに俺の顔を覗き込んで、髪がさらっと揺れる。
「いやいや! そんなことないよ。……どう褒めたら上手く伝えられるかな、と思って」
「なら、良かったです。蒼大くんに見てもらいたくて、時間をかけて用意しましたから」
「うん、よく似合ってるよ」
「……蒼大くん、ほんとに考えてましたか?」
紬は、じとっと不満そうな目を向けるが、頬を少し赤らめている。
「いや……その……俺だけ紬のこの姿を見れるのは、幸せだなって」
ちょっと恥ずかしいけれど、勇気を振り絞って俺は思ったままの言葉を伝える。
「そういう、蒼大くんの心からの言葉が欲しかったんです」
紬は満足そうに言って、ようやく家の中に入ってくる。
丁寧に編み込んであるのが見えて、どれだけ時間をかけたんだろう、と想像する。
ちょっと、他の人には見せたくないような……とは思うけど、今日は久しぶりに出かけたい。
「紬、今日はどこか行かない?」
そう言いつつも、俺には既にプランがいちおう何通りかある。もちろん、紬が家で過ごしたいと言ったらプランCの家でまったりコースになるわけだ。
「お出かけ、ですか。最近はあまりどこかに行くということがなかったので……楽しみです」
紬は快く承諾してくれる。どこがいいでしょうか……と悩む紬は、もう楽しそうだ。
「蒼大くんは、私の思いを想像して行き先を考えてくれていると思うので……任せてもいいですか?」
「わかった。それなら……動物園はどう?」
紬が喜んでくれそうな場所で、まだ行ったことがない場所といえば……と思いながら、俺は昨日の夜のうちにいくつか候補を絞り込んでいた。
「ふたりで楽しめそうですね」
「じゃあ、さっそく……行こっか」
「はい!」
イエネコ以外のネコ科動物に会うのは結構久しぶりな気がするので、俺も心が踊る。
「あ、その前に……蒼大くん、しゃがんでください」
「ん?」
どうしたんだろ、と思いつつ俺は身をかがめる。
「ふふっ……髪の毛、はねてます」
「え、どこどこ」
どうやら側頭部あたりからぴょこっと髪が飛び出ているらしい。
「まあ、これぐらいならそれほど目立ちませんし、可愛らしいですね」
「寝癖、直したはずなんだけどな」
「ちょうど蒼大くんからは見えづらいところなので、しょうがないかと」
紬は跳ねているのを直そうと押さえているが、やっぱりぴょこっと飛び出るようで、くすっと微笑む。
「今度からはちゃんと直そう……」
「蒼大くんの少し抜けているところを感じられるので、私は見たいです」
「うっ……ちょっと恥ずかしいな」
「それなら、朝早くから一緒にいればいいですか?」
……紬は天然でそんなことを言ってみせるから、ずるいんだよな。
平日だと、これ以上早く一緒にいるためには……同棲するしかない。……もしかして、そういうつもりだったりするのだろうか。
「気を取り直して、行きましょう」
「うん、行こうか」
帽子を被ってはねてるのを直そうかな、とか思ったけど、紬が可愛らしいと言ってくれるのにわざわざ直すのもな、と思い直した。
「動物園では、いろいろ解説してください」
「まあ……ある程度ならできると思う」
今日行くところは、スナネコがいるという猫好きにとっては天国のような場所だ。
あとカワウソも見たい。……カワウソはネコ科じゃないけど、ネコ目なので。
「今から、どんな子たちに会えるのかわくわくします」
「そうだね」
それに、紬と遠出をすることはなかなか無かったので、それも楽しみだ。
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