第85話 部長決め
「詳しい活動内容、ちゃんと決めておくべきだと思うんだけど、どう思う?」
「そうですね……先生にも報告しなければならないですし」
俺たちは、子猫たちがお互いのしっぽが揺れるのを追いかけたり猫パンチをしたりするのを眺めながら話し合う。
母猫は、掃除道具箱の上にゆったりと座って、子猫たちを見守りつつ俺たちの様子を窺っている。
とりあえず、今日のところは何をしたのか報告してほしい、ってつもりで早乙女先生は言ったんだろうけど、先まで見据えておくことに越したことはない。
「この4匹のお世話はもちろんとして……こないだみたいに、迷子の猫を探したりとか?」
「そのふたつが中心になりそうですね」
あと、まだ少しだけ早い気もするが……卒業の時には、この4匹の貰い手を探す必要もあるな。ただ、あと2年もないぐらいだし、あっという間にその時は来るだろう。
きちんと、幸せな生活を送っていってもらうためにも、良い飼い主さんを見つけてあげないと。
「とりあえずこれでいいかな。じゃあ、部長……決める?」
先生が置いていった書類に、部員の名前、活動内容などを一通り書き終えた。どのみち、部長は決めないといけないらしい。
「蒼大くんが、部長にふさわしいと思います」
「え……あ、そう?」
紬が部長は必要、だと言ったわりに、案外あっさりと俺を部長にしようと推してくる。
「なりたかったんじゃないの?」
「いえ、そういうわけでもないです。決めたほうが、より部活らしいと思ったので」
「そっか。……じゃあ、ここらへんで今日のところは帰ろうか」
俺が決めていいんだよね、と思いながら俺は続ける。
「お疲れ様、紬」
「はい。……お疲れ様、です」
なにやら妙な間があったような。
けれど、紬はそのまま荷物を持って部室を出ようとする。
……こういうこと、か?
「……お疲れ」
「はい。……蒼大くんが、自分からしてくれるのは久しぶりな気がします」
俺が頭の上に手を伸ばすと、一瞬びっくりしたようだったが、目をつむって身を委ねてくれる。
「部長だから、部員の疲れを取るのも役目なのかな、と」
俺は冗談めかして調子よくそう返してみる。
「……学校の外では、どうなんですか」
「そ、それは」
紬は、ぐっと近寄ってきて、ぜひとも確認しておきたい、という様子で聞いてくる。
「彼女として、可愛がらせてもらいます」
「ふふっ、どうして急に敬語なんですか」
「なんとなく……?」
「……まあ、さっき蒼大くんが言ったことは、一言一句覚えましたから」
こつん、と俺の肩によりかかってきて、俺を見上げて言う。この体勢だと、紬の可愛らしい顔が目の前だ。
「今後も、可愛がります」
「楽しみにしてます」
「も」、これ大事。
紬は、ずっと可憐な微笑みを見せたまま、俺に撫でられている。お互いに心ゆくまで、撫で続けるか。
部室を後にする前に、自動給餌器と給水器の最終確認をしておく。
少し味気無い気もするけれど、猫たちだけで遊べるようなおもちゃも買ってこようかな。もちろん、俺たちがいるときは目一杯遊んであげよう。
「……そうか」
俺たちが職員室に報告に行くと、先生は作業を進めていた書類から顔を上げて耳を傾けてくれた。
「ありがとうございました。これからも、頑張ります」
俺に続いて、紬もぺこりと頭を下げる。
「うん。今日のところはゆっくり休むのがいい」と言われて、俺たちは出口の方へと足を向ける。
「……あ、ひとつお願いがあるんだが」
俺たちが2、3歩進んだところで、先生はペンを置いて声をかけてくる。
「……その、お盆とか……部活が休みの期間は、私が家に連れて帰ってもいいか?」
「「もちろんです」」
俺たちがそう返すと、先生は「やった」と小さく呟いて両手を握りしめている。
周りの先生からの微笑ましそうな視線を集めているのには気付いていないみたいだ。
「ほんと、明日からも楽しみだね」
「そうですね。朝も行きますか?」
「先生が、朝は様子を見に行くって言ってたから、お願いしておいた。朝は、きなことクロと遊ぼう」
部活も大事だが、きなことクロを可愛がる時間が短くなるのはよくない、と思っていたので、先生の提案はありがたい。
先生のことだし、もう飼うための準備は整えてあるんだろうな。
「はい。今日も、遅くなった分たくさん遊びます」
「それがいいね」
俺は頷いて、ふたりで帰り道をいつもより急いだ。
「きなこ、遅くなってごめんな」
玄関でごろんと寝ていたようで、やっとかあ……とあくびをしながらこちらを見てくる。もしかしてふて寝してたのかも。
「ごめん、さっそくだけどちゅーるいる?」
そう声をかけると、いつもご飯を置いているところまで、俺を急かすように歩き出す。
ちゅーる完食後、しばらくきなこの食休みを取って自分の夜ご飯は後回しで遊びまくった。
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