第53話 お昼休み

 ようやく午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

 まあ、まだ提出物を出したりとか始業式をやったりとかそんなところだったけど。


 紬は、なにかしらを書いたメモ紙で小さな紙飛行機を折ってこちらへ飛ばしてくる。

 席隣なんだし、普通に話しかけた方が怪しくない気はするが……可愛らしいからいっか。


 俺は、無事に机の上に着陸した紙飛行機を拾い上げて書いてある文字を読む。

 いつも思うけど、紬の字ってめちゃくちゃ綺麗なんだよな。



 『お昼、食べに行きませんか』


 そう書いてあるのを見て、俺は分かった、と呟く。どうした猫村……? って顔で前の人に振り返られた。


 紬は、弁当箱を持って立ち上がり、歩き始める。俺も続いて立ち上がって、紬のあとを追って歩く。

 ちゃんと付いてきているのかな、と廊下に出たところで紬はぱっと俺の方を振り向いて確認していた。


 「私、いいところを知っているんです」

 「そうなの?」

 「はい、落ち着いた場所なので、ご飯が美味しく食べられます」


 紬に導かれるまま、存在理由が分からない4階の階段にやってきた。

 他の棟には、4階から屋上へと繋がる階段があるが、この棟は屋上へのドアはないのになぜか階段だけがある。しかも、窓もなくむき出しになっていてかなり開放的だ。


 無意味なもの意味を見出そうとするあたり、現代アートかなにかなのか?とか思ったりする。


 そんなところなので、滅多に人はやってこないようだ。

 遠くの山の方まで見えたりして、眺めも良い。気持ちよい風が、俺たちふたりの間を吹き抜けて行く。

 この前の大雪が嘘のように、今日は暖かい。


 俺たちは階段に腰掛けて、それぞれ持ってきた弁当箱を開く。

 今日の卵焼きの出来はなかなか良かったので、早く食べたいと思っていた。それに、キウイも入れたし。


 「「いただきます」」


 「……どうぞ」


 紬は、箸でタコさんウインナーを捕まえて俺の方に近づけてくる。


 「いいの?」

 「はい。たくさん作ったので、大丈夫です」

 「じゃあ、いただきます」 


 紬の弁当箱には、まだまだタコさんウインナーが詰められている。これは……うさぎみたいに切ったりんごが出てきそうだな。


 「学校でこういうことするのは……ちょっと恥ずかしいものですね」


 誰にも見られてはいないが、たしかに気恥ずかしい感覚はある。でも、このくらいの距離感なら、前にも見たことあるような。


 「……文化祭前とか当日とかも、こんな感じだったような」


 俺はぼそっと呟いてみる。あの時よりも進んだ関係が、ちょっと恥ずかしいような思いを生んでいるのかも知れないけど。


 「……ん」


 紬は、さらに顔を赤くしてぐいぐいと追加のタコさんウインナーを近づけてくる。というか、押し付けてくる。


 「からかってくる蒼大くんの口は塞いでおきます」

 「もご……ごめんごめん」


 俺はタコさんウインナーを飲み込んだあと、にやっと笑って言う。

 

 「紬からもらいすぎちゃったから、俺のもなにかもらっていいよ」

 「それなら……キウイをもらってもいいですか?」

 「いいよ」


 俺は、帰ってから冷蔵庫にある分を食べるとしよう。

 俺は、キウイを刺した爪楊枝を紬に渡した。ちょっとだけ期待外れ、という顔をされたような。


 「そういえば、マタタビとキウイって結構似てるらしいよ。だから、猫にキウイをあげたらマタタビみたいな反応するらしい」


 キウイを食べて、「甘い……」とこぼしている紬に、そういえば、と思い出したことを話してみる。

 

 「そうなんですね、蒼大くんはマタタビとかキウイをあげてみたことはあるんですか?」

 「1回あるけど……めちゃくちゃ暴れ回ったから、2回目はもうないかな。もしあげるなら、量は気を付けた方がいいと思う」


 あのときのきなこは狂ったように猫じゃらしを追いかけ回していたな。


 「分かりました。やっぱり蒼大くんは物知りですね」

 「猫に関してだけ、だけどね」

 「……なんだか、出会ったときみたいで懐かしいです」


 ホームセンターでいろいろ話したような記憶がある。

 昔を懐かしむ会話を続けようとしていると、普段の3倍は音量が大きなチャイムが鳴り響く。近くに、放送室があったな。


 ……チャイム?


 「あと5分じゃないですか!?」

 「うわ……やべえ」


 俺たちは慌てて弁当箱をしまい、階段を降りる。教室と棟が違うから移動が大変だ。


 「ふぅ……なんとか、間に合いましたね」

 「う、うん。危なかったね」


 俺たちは、息を整えながら教室へと歩く。ここまで来てあと2分なら間に合う。


 「はぁ……はぁ……あ、紬。今日はどこで食べていたの? 一緒に……って、あれ」

 

 俺たちとちょうど同じタイミングで、どこで過ごしていたのかは分からないが氷室さんが教室へとやってきた。

 俺と紬の顔を見てから、若干察したような表情であたふたと教室へと入っていく。


 ……これは、氷室さんにバレてしまった可能性が高いかも。氷室さんがいることで、教室にいる皆には怪しまれないけれど。


 


 


 

 


 

 

 





 


 






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る