第46話 かまくらの中で
俺たちはふかふかなカーペットをかまくらの中に敷いて、くつろぐ準備を整える。
きなことクロも連れてきて、賑やかな空間が出来上がった。
少ししたら2匹は寒がるだろうし、自由気ままな猫からしたら狭い世界なので、家に戻ってもらうけれど。
「暖かい……ですね」
俺たちはやわらかな光を放つキャンドルに近づく。
ちゃんと空気孔は開けているのでご心配なく。
猫2匹は、キャンドルに近づいて暖かさを享受したかと思えば雪の壁に近寄って行く、というのを繰り返している。
そろそろ落ち着きがなくなってきたか。2匹は、なごなご鳴いて出してほしい、と要求してくる。
「じゃあ、2匹は部屋に戻ってもらおうか」
「寂しいですけど……仕方ありませんね」
俺たちはそれぞれクロときなこを抱き抱えて、室内へと撤収する。
「猫村くん。早くかまくらに戻りましょう?」
俺がカイロを出そうとしていると、花野井さんに声をかけられた。
「……カイロ、いらない?」
「かまくらの中は十分暖かいですし、大丈夫ですよ」
花野井さんは早くかまくらを楽しみたい様子で、俺を連れて行こうとする。お菓子を持っていきたいから、少しだけ待って?と返した。
「どうぞ」
「お邪魔しまーす」
さきに花野井さんは中でちょこんと座っていた。
「これ、一緒に食べよう?」
「……雪見だいふく、ですか?」
たしかに、冬にアイス……?と思うかもしれない。けれど、雪見だいふくは冬に食べても美味しい。
その名前の通り、雪を見ながら食べればさらに美味しくなるのではないか、と思う。
花野井さんが1個をまるまる口に入れて、もぐもぐ食べているのを見守る。
「……美味しいです。もし良ければ、猫村くんのいちご味と1個ずつ交換して食べませんか?」
「それ、いいね。俺も、普通の味が食べたくなったんだよね」
もらうね、と言って俺が棒に通常verの雪見だいふくを突き刺そうとしたところ、花野井さんが俺よりも先に棒を突き刺した。
「……? はい、どうぞ」
花野井さんは雪見だいふくをゆっくりと俺の口に近づけてくる。
「つ、つめた」
花野井さんは微妙に狙いを外して俺の頬に雪見だいふくを当ててしまう。
「すみません……! 次は外しません。猫村くん、口を開けてください」
「うん」
次はしっかりキャッチできた。中のアイスがキンキンするほど冷えていて、夏に食べたときよりも美味しく感じた。
花野井さんは俺から雪見だいふくをもらうのを待っているらしい。
俺は、間接キス……になるのか? とか、そんなことを思いつつ自然な風を装って、雪見だいふくを刺した棒を花野井さんの方へとゆっくり近づける。
「はむ……美味しいです。また後で買ってきて、食べましょう」
「冷凍庫にストックしておけば良かったね」
俺がそう笑って言うと、花野井さんも微笑み返してくれた。
「……今年も、あと2日で終わりですか」
雪見だいふくを味わい終えて、俺たちはかまくらの中から、しんしんと雪が降る外を眺める。
「そうだね。でも、俺はそんなに早いとは感じなかったな。花野井さんと過ごした日々は濃密だったし」
「そうですね。猫村くんと出会えて、私も楽しかったです」
大晦日に伝えるべきことを先取りしてしまっているような、とは言ってて思った。
「まあ、まだあと明日、大晦日があるから……1年分の感謝は、明日になってから伝えようかな」
「……明日伝えてもらいたいことは、もう1つありますけど」
花野井さんは、思わせぶりなことを言う。が、耳まで赤くなっている。
「あ、あんまり見ないでください」
そう言うと、花野井さんはいつか見た可愛いブランケットで顔を覆い隠す。カーペットと同時に運び込んでいたようだ。
「……それがなにかは、猫村くんが自分で考えてください」
花野井さんはブランケットから顔を覗かせて、くりっとした瞳で俺を見つめて言う。
「……分かった」
日頃の感謝……以外ってことだよな。そうなればあと思いつくのは……あれしかないけれど。
ほんとに合ってるのかな……と心配にはなる。でも、俺もそろそろ覚悟を決めて伝えないといけないのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます