第45話 かまくら作り
俺は庭の倉庫からプラスチックの大きなシャベルを2つ取り出す。数年前にもかなりの大雪があって、その時に買ってきた覚えがある。
満を持して登場、ということで。
「さっそく作り始めましょう」
花野井さんはニット帽も被り、寒さ対策はバッチリ、という風貌で言う。もこもこしている頭に、手を伸ばしたくなる衝動を抑えた。
「うん。……ここらへんに作る?」
「そうしましょう」
朝調べたけれど、かまくらの作り方には2種類あるらしい。ブロックを積み上げて作るのはおしゃれではあるが、ふたりで作業するのには向いていなさそうだ。
かまくら祭りでも、雪を高く積み上げてから中をくり抜くらしいし、その中でなにか食べたりしてるからドーム型でも大丈夫だろう。
「ここに高く雪を積み上げてから、入れるように掘ろうか」
「はい。猫村くんが指示してくれる通りにやるので、教えて下さい」
花野井さんは、俺の説明を食い入るように聞いてくれる。
どうやら俺は、完璧な助手に手伝ってもらえるようだ。
まず、俺たちはかまくらのだいたいの大きさを把握するために、直径3メートルほどの円を雪の上に描く。壁の分も考えると、直径2メートル前後のスペースになるだろうか。
クロときなこは、羨ましそうに窓の内側から俺たちを眺めている。
俺は花野井さんとふたりきりで作業するから、クロときなこはゆっくり過ごしててくれ。
……おっと、猫相手に謎のマウントを取りそうになった。
「意外と……大変ですね」
ふぅっ、と白い息を吐いて花野井さんは呟く。第1段階は雪を高く積み上げるだけ、という単調な作業だ。
疲れが出てくるのも当然だろう。
「一回部屋で休もうか」
「はい。ありがとうございます」
俺たちは一旦ぬくぬくとした部屋に戻ってきた。
やっと遊んでくれる、と思ったのかきなことクロはそれぞれ俺たちに擦り寄ってくる。
「コーヒー、淹れましょうか? 暖まりますよ」
「ん……飲んでみようかな」
ちょっと迷ったけれど、試すのには良い機会だと思って頷く。
「……できました。どうぞ」
花野井さんは家にあった道具でドリップコーヒーを淹れてくれた。もちろん、マグカップはクリスマスに買ったものだ。
ほんわりと湯気が立ち上っている。
「苦い……」
子供の頃、親が飲んでいるのを見てチャレンジしてみようとしたんだけど、結局飲み干せなかったのを思い出した。
あの時から、俺の味覚は成長していないらしい。
「まだまだお子様ですね、猫村くんは」
花野井さんはなんともない、という表情でコーヒーを味わっている。一旦カップを置いて、そう俺をからかってくる。
「いやいや、飲み干せるから……! 砂糖追加したら」
「ふふっ、甘くしてるじゃないですか」
花野井さんはくすっと笑って、コーヒーにミルクと砂糖を入れてくれた。
「これでどうですか?」
俺はちびちびとコーヒーを飲み始めて、美味しいと気付くとカップを傾ける角度を大きくする。
「……うん、美味しい」
「猫村くんの舌に合うコーヒーは私にしか淹れられないみたいですね」
花野井さんはドヤっと胸を張る。
「また飲ませて」
「……猫村くんを砂糖漬けにしてしまいますけど、いいんですか」
「苦味とプラマイゼロになるだけだから大丈夫だよ」
「……そうはならないと思いますが。でも、飲みたいと言ってもらえればいつでも淹れます」
「ありがとう」
……違う意味でも、砂糖漬けにしてもらっていいんだけどな。
心までも暖まるような休憩を終えて、俺たちは作業を再開する。
とりあえず、俺の背丈をゆうに超えるくらいには雪を積み上げ終えたので、あとは中を掘ってくり抜くだけだ。
「なんだか、文化祭の前の準備を思い出しますね」
「ふたりで準備してたの、懐かしいね」
協力して作業していたのが、まったく今と同じ感じだったな、と思い返す。
「……ずっとふたりきり、というのは前とは違いますけど」
花野井さんはぼそっと言う。たしかに、ずっと花野井さんと喋りながら作業できるという嬉しさがある。
「手、止まってますよ?」
花野井さんは俺の手を自然に握って、そう声をかける。
「あ、うん。あと少しだね、頑張ろう」
「はい……!」
「「できた!」」
俺たちは顔を見合わせて喜ぶ。
やっと人が入れるかまくらが出来上がった。あとは、ここでぬくぬく過ごすだけ……!
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