第40話 クリスマスは終わらない
「ありがとうございました」
「そんな、大したことはしてないよ。痛みは引いた?」
俺の家まで戻ってきて、ヒーターで温まりながら応急処置を完了させた。
花野井さんが丁寧にお礼を言うので、俺はそこまで気にしなくて大丈夫なのにな、と思う。
「だいぶ軽くなりました」
花野井さんはテーピングを巻いて処置をした足首を撫でる。
「良かった。じゃあさっそく……プレゼント交換しようか?」
「……はい!」
俺たちは袋から相手へのプレゼントを取り出す。
「メリークリスマス!」
俺がそう言ったのを合図にして、買ったプレゼントをお互いに交換した。
何を貰うのかは、一緒に買い物をしていたので分かっているけれど、そんなことは関係なく本当に嬉しい。
「……今年はサンタさんはいないものだと思ってました」
花野井さんは、大事そうにマグカップを両手で包んで言う。
「そうだね。俺もそう思ってた」
現実的な話をすると、もう高1だし貰えないだろうな……とは思ったりもしてた。実際、親の出張が決まったのでクリスマスプレゼントがもらえるとは考えもしていなかった。
ふたりとも同じものを持っているわけだし、間違えないようにしないと。
「さっそく今日寝る時から着よう。ありがとう」
「喜んでもらえて……嬉しいです」
お風呂から出たら着替えよう。
新しいもの好きなきなこが、俺たちの様子を観察しに机に上がってきた。すんすん、と鼻を鳴らして検閲をしている。
セーターで爪とぎをされてしまったらいけないので、手の届かないところに置いておいた。
しばらく余韻に浸っていたが、クリスマスはそろそろ終わってしまうな、ということに気が付いた。
「もうこんな時間か……」
窓の外はすっかり暗くなっていて、街灯が降り続く雪を照らしている。
「クリスマスって、家族とか友達と一緒に過ごすものですよね?」
友達、の部分には恋人が入るのが正しい答えだと思うけど。
「そういうもの……だと思う」
「聖夜、と言うぐらいですし、夜まで楽しみませんか?」
花野井さんとクリスマスをまだ満喫できるというのに、その申し出を断る選択肢はない。
「じゃあ、布団出してきておこうかな」
俺は立ち上がって押し入れの方に歩き出すが、袖を掴んで引き止められた。
「……あの。私の家、来ませんか?」
「……え?」
突然のお誘いに、俺は見事に思考停止する。クリスマスを夜まで楽しもう、というだけではなく……俺、花野井さんの家に上がってしまうのか!?
「そ、その……! いつも猫村くんのお家にお邪魔してばかりで、申し訳ないなと思いまして」
花野井さんは、身を乗り出して必死に俺に訴えかけてくる。少し照れ隠しも入っているような。
「花野井さんが良いって言ってくれるなら、俺は行きたいな」
「分かりました……夜ご飯も、私が作りますね」
花野井さんの表情がわかりやすく緩んだのを見て、俺自身も笑顔になったのを感じる。
「……お邪魔します」
俺は花野井さんに連れられて、向かいの家の玄関前に立つ。もちろん、花野井さんときなこの許可を得てからきなこも連れてきた。
玄関に入った瞬間から、花野井さんの甘い香りがする。
親戚の持ち家だったと聞いていたが、すっかり花野井さん色に染め上げられている。可愛い猫の置物もあるし。
「ふふっ、緊張している猫村くんは初めて見ました」
俺が靴を脱がずに立っているのを見て、花野井さんは俺の顔を覗き込んでくる。
「たしか最初俺んちに上がった時、めちゃくちゃ緊張してて玄関で固まっていた人を知っているような……?」
「か、からかわないでください」
花野井さんは顔を赤くして俺の肩をぺちぺちと叩く。全く痛くないけれど。
「どうぞ、上がってください」
「ありがとう」
俺は恐る恐る第一歩を踏み出す。誘導されるがままに、俺は花野井さんの部屋に上がらせてもらった。
「……私は、夜ご飯の準備をしてきますね」
「手伝うよ」
俺は腰を上げて言う。
「お客さんはゆっくり過ごしててください」
花野井さんは、俺の肩にちょん、と触れて座っていた位置に戻す。そして、台所に向かっていった。
ベッドと、机と椅子、それに箪笥があってカーペットが敷いてあるシンプルな部屋。猫に荒らされてしまうことを考えたら、自然と家具は減るんだよなあ。
部屋は白基調の家具で統一されていて、清潔感満載だ。
花畑にいるかのような、幸せを感じる匂いに包まれる。
俺はそんな空間で、クロときなこを撫で回して相手をする。こんなの、多幸感がありすぎてドーパミンがどぱどぱです!
「もうすぐで出来ます」
「ありがとう。すごく楽しみ」
花野井さんは、一瞬俺の様子を確認しに来て教えてくれた。
日付が変わるまであと5時間、クリスマスはまだまだ終わらない……!
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