第39話 クリスマスのお出かけ②
人混みの中で、お互いの姿を見失わないように歩調を合わせて歩く。
エスカレーターまで来ればとりあえず一安心かな。俺はほっと一息ついて、エスカレーターに運ばれる。
特にハプニングもなく、お目当ての雑貨店まで上がってこられた。クリスマスの予定が決まる前から、良さそうだなと思って調べてた場所だ。
間違いなく花野井さんが好きなものがある……はず。
「色々可愛いものがあって……良いところですね」
花野井さんはカラフルな商品棚をきょろきょろして見ている。ちゃんと調べてて良かった……!
しばらく店内を眺めていると、目に留まったものがあった。
「俺は……これにしようかな」
ゆる〜っとした猫のイラストが描かれているマグカップ。これ、メッセージアプリのスタンプにも使われてるやつだ。
「どう……?」
俺は2つマグカップが入っている箱を何気なく花野井さんに見せる。1つより2つの方がいいだろうな。
「猫村くんも一緒に使ってくれるんですか? お揃いなら、なおさら嬉しいです」
「あ……もちろん。俺も使えるかなと思って」
花野井さんは俺も喜ばせるようなことを自然に言う。
花野井さんは俺のことを好きなのかも……と前思ったときは、気の迷いだと考えていたけど、案外そうでもなかったりするのか……?
「あとは、私が決めるだけですね」
「あ、そんなに慌てなくていいからね?」
「分かりました」
花野井さんはこくっと頷いてみせる。
花野井さんが悩んでいるうちに、マグカップの会計は済ませておこう。別のとこに移動するかもだし。
「これも可愛いですし……どうしましょう。猫村くん、一回試着してもらえませんか?」
会計を済ませて戻ると、マグカップと同じイラストのゆる〜っとした猫が描かれたセーターを花野井さんは持っていた。
YURURINEKOという文字がちょろっと書いてあるそのセーターは、ふわふわで猫を撫でたのに近いような手触りだ。
俺はセーターを受け取ると試着室へと向かう。
「……どう?」
「可愛いです」
即答だった。もう買うことを決めたらしい。
「私も買ってパジャマにしようかな……」
花野井さんはもう1枚同じセーターを手に取って眺めている。もちろんサイズは俺とは違うけれど。
……いや、俺と同じサイズを買ってもらってぶかぶかなセーターを着ている、というのも見てみたい。
「……決めました。私も買ってきます」
花野井さんが意を決してレジへと向かうのを俺は見守る。パジャマ姿、いつか見せてくれるのかな……?
レジを通ると、満足げな表情を見せて、花野井さんは俺の方へと小走りでやってきた。
「帰ったら、プレゼントの送り合いしようか?」
「そうですね……!」
俺たちは満足して、下へと向かうエスカレーターに足を踏み出した。
電車を降りると、雪の勢いは来たときよりも増していた。足跡が残る程度には雪が積もっている。
これ以上遅くなっていたら電車が止まって、帰宅困難になっていたかも。ぎりぎりセーフ。
俺たちは服にべたべた付いてくる雪を払いながら歩く。
「うおっ……あぶね」
隠れたマンホールの蓋で、花野井さんは足を滑らせる。俺は咄嗟に手を出して、転ぶ寸前で花野井さんを止めることに成功した。
「大丈夫……?」
「は、はい」
花野井さんは首を縦に振ってみせたけれど、心配そうに足首をちらちら見ている。
「すみません……足を捻ってしまったみたいで」
花野井さんはそう眉を下げて、申し訳無さそうに言う。
応急処置の道具ぐらいぱっと出せる気が利く男になりたかった、と切実に思う。
「なら、俺が背負っていくよ」
「だ、大丈夫です。歩けますから」
だいぶ恥ずかしそうだけど、そうも言ってられない。
「荷物預かるから、俺の背中に乗って」
「……荷物は私が持ちます。猫村くんの負担が大きすぎるので」
「大丈夫なら、頼む」
マグカップは俺が持っておくことにした。割れ物だし、低い位置にある方が安全だろう。
俺がしゃがむと、花野井さんは恐る恐る、といった様子で背中に乗ってくる。
「しがみついててもらっていいよ」
「わ、分かりました」
花野井さんは、腕を胸の方まで回してくる。がっしりとつかまっているので、落ちてしまう心配はなさそうだ。
「家に着いたら、応急処置するからね」
テーピングとかあったっけか。とりあえず冷やすか……?
「……なんだか、猫村くんと一緒にいると、ほっとします。どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」
「大事なとも……いや、大事な存在が困ってるなら、やれることやんないと」
前も同じようなこと聞かれたな。
友達、と言いかけたが、言い直した。友達って言葉では言い表せないほど、俺の中で花野井さんの存在が大きくなっているのは気付いている。
「今……私の方は見ないでもらえると助かります」
「どうして?」
俺は脊髄反射的に振り返る。すると、花野井さんは柔らかな手のひらで優しく俺の顔を前に向けた。
「その……照れてるので」
「……あ、ごめん」
「あ、謝ることではないですよ?」
花野井さんは慌てて訂正に入る。
背中から、花野井さんの体の暖かさがじわじわと伝わってきた。
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