第23話 みんなで文化祭準備

 「係のふたり、ちょっと頑張り過ぎじゃない? 私たちも手伝うよー?」


 女子の学級委員が、残って作業を始めようとする俺たちを見かねて声をかけてくる。

 どうやら、10人弱ぐらい手伝ってくれるみたいだ。


 本音を言うと、ふたりだけで作業する時間は好きだったから、そのままでも良かったんだけど。

 手を差し伸べてくれてるから、そんなことは口が裂けても言えないが。


 「ありがとう。助かる」

 「いやいや! 大丈夫だよ〜」


 女子の学級委員の相良さんはにこやかな表情を見せて言う。この人、誰に対してもこんな感じだから尊敬する。


 「なにを手伝ったらいいのー?」

 「うーん、飾り付けのアドバイス欲しいかな。あとこれになにを追加したらいいかとか。インスタ映えしそうなのが欲しい」

 「なるほどね〜」


 そう言って、相良さんたち女子チームはなにやら作戦会議を始める。


 「これだけでもインスタ映えしそうだけどね」

 「うん。いいよね」


 俺が作ったフォトフレームは割と高評価みたいで、女子に囲まれている。

 

 「凄いね、猫村くん」

 「おお……ありがとう」


 そんなに褒められ慣れてないので、俺はつい引き気味になる。……若干照れたのを隠したい。


 「……あの。衣装、作ってみたので確認してもらいたいです」


 花野井さんはなぜか俺と目を合わせないようにしながら女子軍団に言う。……どうして?


 「実際に着てみた方が分かりやすいと思うので、着替えてきてもいいですか?」

 「うん。待ってるね〜」


 相良さんは、元気良く花野井さんを見送ると、俺に話しかけてくる。


 「花野井さんとは、仲良いの?」

 「まあ……席隣だし、喋る方かな」

 「そうなんだー、花野井さんって、あんまり男子と喋ってるイメージないなあ」


 相良さんが首を傾げながら言い、それから他の皆にもそうだよね?と問うと、ねー、と同意の声が上がっていた。


 「男子は喋りたがってるイメージだけども」

 「少し壁作ってる感じあるけど、話してみたら案外そうでもなかったりする」

 「ほ〜ん」


 相良さんは、なにやら面白がるような表情をして言う。なんとなく距離感が分かってきたような。



 「……着替えてきました」


 花野井さんは、ゆっくりとドアを開けると、恐る恐る教室に入ってくる。……一瞬俺の方を見て、じとーっとした目を向けて来たのは錯覚だろうか。


 「えっ……めっちゃ可愛い」


 女子たちは息を飲んで言い、顔を見合わせる。


 「写真撮ってもいいー?」

 「あ……はい。大丈夫、です」


 相良さんの高いテンションに、なんとか対応している様子だ。

 

 ……正直俺もその写真のデータは欲しいが、芸能人を囲む輪みたいになっていて、ぼーっと眺めていることしかできない。

 花野井さんがこれ以上対応しづらそうなら止めに入れるようにはしておこう。


 「これ、イチから作ったの?」

 「そうですね」

 「ええ〜、すご」


 キラキラした目をして相良さんは言う。俺の記憶が正しければ、たしかこの人、家庭科部みたいなの入ってたような。


 「私も手伝えるかなあ……逆に足手まといにならないか心配」


 相良さんはころっと表情を変えて言う。


 「まあでも、花野井さん1人にこんな大変な仕事頑張ってもらうわけには行かないから、意地みせますか」


 相良さんは服の袖を捲くりながら言う。この人、ほんとに良い人だ……!


 「じゃあ、材料だけ分けてもらってもいい?」

 「分かりました。どうぞ」

 「ありがとう! ……私は、家帰って作業しようかなー?」

 「私たちも、ちょっとアイデア考えてくるね?」

 「おー、よろしく」

 「よろしくお願いします」


 相良さんは俺たちにぶんぶん手を振りながら帰っていく。女子たちも、俺には考えつかないようなアイデアを出してくれそうだ。



 教室には俺たちだけが残り、昨日までの静かながらほっとする空気が戻ってきた。たくさん人がいるのも、わいわいしててにぎやかだが。



 「……いつも通り、ふたりになりましたね」

 「そうだね。俺たちも、今日のところはそろそろ帰ろうか」


 そう言って立ち上がる。が、そんな俺の前に花野井さんは立ちはだかる。


 「少ししゃがんでもらえますか?」

 「ん? いいけど……?」


 俺は不思議がりながら、要求通り腰を曲げてかがむ。


 「……猫村くん、可愛いです」

 「え? なになに」


 花野井さんは近寄ってきてなにかを俺の頭に付けてきた。


 手を伸ばして確かめると、ふさふさな猫耳が俺の頭から生えていた。


 「女の子と喋って、鼻の下を伸ばしていた猫村くんへのいたずらです」


 花野井さんは、そう付け加えると俺が前したように猫耳をぺこぺこ触る。なんだか照れるな。


 「それはすまん」

 「ふふっ……冗談ですから」


 俺が真面目に謝ると花野井さんは聖母のような微笑みを見せて言う。


 いたずらって言ってたけど、花野井さんみたいな天使に猫耳をつけてもらえるというのは、俺にとってはご褒美すぎる。


 「あんまりいたずらになってませんね……帰りも付けてもらいましょうか」

 「それは流石にやめてね?」

 

 真顔で恐ろしいこと言わないで? 知り合いに会ったらなんて説明するんだ。


 「じゃあ写真だけでも。……いいですよね?」

 「あっ、はい」


 少し妬いてるらしい花野井さんが可愛らしすぎた。








 


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